朝どれソング
2021年オペラシアターこんにゃく座は創立50周年を迎えました。
2018年7月から2020年6月まで、「朝どれソング」として毎月2曲ずつソングをお届けしてきましたが、今年は創立50周年を記念して「朝どれソング 合唱版」と題し、1月、4月、7月、10月と年4回、各月3曲ずつ、林光と萩京子の合唱曲をお届けします。
★朝どれソングとは...★
林光、萩京子の作曲したソングをこんにゃく座歌役者が歌います。
とれたてのみずみずしい食べ物のように、みなさんのエネルギーの源になることを願って。
今月のソング(2021年10月7日公開)
♪飛行機よ
♪みみがさわる(新曲)
♪果てしない波を渡るための歌
映像:和久井幸一
【萩京子・極私的作品解説】
飛行機よ
詩:寺山修司、曲:萩京子
歌:富山直人、髙野うるお、石窪朋、豊島理恵、沢井栄次、熊谷みさと、壹岐隆邦、飯野薫、鈴木あかね、冬木理森、泉篤史、大久保哲
ピアノ:萩京子
寺山修司の5つの詩による混声合唱曲の最後にこの「飛行機よ」を置き、組曲のタイトルを「飛行機よ」とした。高校生から社会人まで、たくさんの合唱団によって歌われている。
この曲はソングを作曲するような気持ちで作曲したのでメロディー重視の曲となった。
だが後半に多声音楽の面白みを膨らませた部分もある。
寺山修司にとって「人力飛行機」は特別の意味を持っているように思う。
飛びたかった、という少年のこころの叫び。
「リリエンタールの人力飛行機」という詩の部分は、特別に気持ちを込めてメロディーとハーモニーを考えた。
そこに続く、
両手をひろげてのぼったビルディングの屋上に
忘却の薄暮がおしよせる
せめて
墜落ならばできるのだ
翼がなくても墜ちられるから
いろいろなことを考えさせられる。
「ぼくは12歳」書いて自死した岡真史の思い。
10代の後半によく聞いた、荒井由実の「ひこうき雲」なども心に浮かんだ。
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飛行機よ
翼が鳥をつくったのではない
鳥が翼をつくったのである
少年は考える
言葉でじぶんの翼をつくること
だが
大空はあまりにも広く
言葉はあまりにもみすぼらしい
少年は考える
想像力でじぶんの翼をつくることを
いちばん小さな雲に腰かけて
うすよごれた地上を見下ろすと
ため息ばかり
少年は考える
リリエンタールの人力飛行機
両手をひろげてのぼったビルディングの屋上に
忘却の薄暮がおしよせる
せめて
墜落ならばできるのだ
翼がなくても墜(お)ちられるから
ああ
飛行機
飛行機
ぼくが
世界でいちばん
孤独な日に
おまえはゆったりと
夢の重さと釣合いながら
空に浮かんでいる
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みみがさわる
詩:谷川俊太郎、曲:萩京子
歌:大石哲史、花島春枝、髙野うるお、鈴木裕加、彦坂仁美、沢井栄次、金村慎太郎、小林ゆず子
この朝どれソング合唱版のために作曲した曲。
詩は音であり、字でもある。
目で字を追い、心のなかの音を聞く。
本来耳は聞く機能であり、目は見る機能だけれど、「目で聞く」とか「耳で見る」などの感覚を持つことによって、ものの感じ方が変わってくる。
ものごとを新鮮にとらえることができる。
詩や音楽はさわることができないけれど、さわろうとしてみることもおもしろい。
そんなことを感じさせてくれる詩。
そしてこの詩がおもしろいと思ったのは、「みみでさわる」ではなく、「みみがさわる」というところ。
耳に意思があるみたいでおもしろい。
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みみがさわる
みみがさわる
しんくうのうちゅうのささやき
めがさわる
きらめくひかりのすばやいつぶつぶ
てがさわる
きみとぼくをむすぶみえないちから
こころがさわる
あたらしくてふるいものがたりに
くりかえしひそむゆめ
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果てしない波を渡るための歌
詩:木島始、曲:林光
歌:全員
ピアノ:萩京子
カンタータ「脱出」の終曲。
「脱出」は、戦時中強制的に日本に連れて来られ、北海道の炭鉱で過酷な労働を強いられた劉連仁(りゅう・りぇんれん)の記録に基づくカンタータ。終戦の直前、炭鉱労働から脱出し、終戦を知らず北海道の原野を13年間さまよった劉連仁のものがたりを、ソプラノとテノールのソロ、ナレーター、そして混声合唱とオーケストラにより、叙事的に、時に抒情的に訴える力強い作品だ。1978年に作曲された。
1970年代は、林光さんが最も美しいメロディーを生み出した時代、と萩は考えている。
親しみやすく、しかも強く訴えかける。
「果てしない波を渡るための歌」と題されたこの終曲は、魯迅による詩句
度盡劫波兄弟在
に基づいていて「荒波を渡っていけば兄弟がいる」という意味だそうだ。
これはとても強く胸を打つことばだ。
常に争いごとは絶えず、悲しみが続き、深い恨みが消えることがない。
だが、「荒波を渡っていく」ことをあきらめてはいけない。
荒波を渡っていけば、そこで兄弟に出会えるかもしれない。
憎しみあっていた人と人の間に友情が芽生えるかもしれない。
この歌からは、その意思が伝わってくる。
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果てしない波を渡るための歌
雪どけの谷間 水の流れは美しい
だが どうして水は流れてゆくか
流れる水の下に岩があり
流れる思いを動かす出来事がある
溶けた雪のした 泥のなか
たしかにあなたの足は踏みしめたのだ
その岩を あの出来事で
果てしない波をわたりつくして兄弟がある
ものの溢れる底に何があるか
時の壁をつらぬきとおし
歌のひかりで映してみよう
あなたの足が踏みしめた跡を
ビル立ちならぶ底に何があるか
忘れてならぬ出来事つたえ
歌のちからで憶えていこう
あなたの足どりを 波また波をわたるため
果しない波をわたりつくして兄弟がある
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