【萩京子・作曲ノート】
空をかついで
詩:石垣りん、曲:萩京子
石垣りんさんの詩を読むと、いろいろな感情が呼び起こされます。
そして読むたびに違ったことを感じます。
石垣りんさんの作品には、柔らかなところととんがったところがあり、それが表に出ていたり隠れていたりするので、
読む人の年令や、環境や、状況によって違うところが心に響くのではないか、と思います。
この歌は1984年に作曲しました。
コンサートで演奏するという目的はありませんでした。
詩集を読んでいて、ふと思いたって歌にしたくなって、取りかかりました。
ぐんぐんメロディーが浮かんできたと記憶しています。
(めったに無いことです!)
ピアノの伴奏も思い通りに筆が進みました。
でも終わり近くで立ち往生。
「この重たさを」のあたりです。
「この輝きと暗やみを」・・・。
あまりにシンプルなことばに、明るさと暗さが織り込まれていて、どっちに行っても違うような気がして…。
いろいろな音を書いては消して、が続きました。
明るくも暗くもなく、落ち着いた気持ちで(自分に)語りかけるように歌えるメロディーとは?
と、もがいた末の音を書きました。
その後、口コミでいろいろな方が歌ってくれるようになり、その後合唱版もできました。
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空をかついで
肩は
首の付け根から
なだらかにのびて。
肩は
地平線のように
つながって。
人はみんなで
空をかついで
きのうからきょうへと。
子どもよ
おまえのその肩に
おとなたちは
きょうからあしたを移しかえる。
この重たさを
この輝きと暗やみを
あまりにちいさいその肩に。
少しずつ
少しずつ。
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小さな草
詩:まど・みちお、曲:萩京子
神戸のオペラ歌手、濱﨑加代子さんのリサイタルのために、何かソングを、と頼まれてこの詩を選び2016年4月に作曲しました。
私は、誰にでもわかるやさしいことばで宇宙的なスケールを語るまど・みちおさんの詩にとても引きつけられます。
歌を作るために詩を探す、という作曲家の習性が長年身についてしまっていて、詩というものを純粋に味わいにくくなってしまっているのですが、まどさんの詩を読むと、曲作りと関係なく心が動きます。躍ります。
そしてまどさんの詩はほんとうにたくさんあって、歌にしたいことばの宝庫です。
歌になるために書かれた詩も多いですし、そうでない詩にも、すでにたくさんの作曲家が作曲しています。
しかし、まどさんの詩は、なかなか一筋縄ではいかないことが多いです。
シンプルに見えていますが、必ずひねりが入っていますから、転びそうになります。
まどさんの詩はいたずらっ子のようなところがあるのですから。
小さな草。
道ばたの、人に踏まれてしまっているような草の存在に、光が注がれている。
人に踏みつけられているようなものが、世界を照らし出す。
でも抗議する口調ではなく、風と遊んで…。
まどさんのエピソードで好きなことをひとつ書きます。
詩を書きあげて、清書して、封入して、注文主(出版社?)に郵送するためにポストまで行く。
でも、ポストの前で立ち止まって、どうしても投函できなくて、家に持ち帰って書き直す。
ああ、いいなあ。
まどさんの詩は、ひとつひとつそんなふうに書きあげられているんだ、と思ったとき、
まどさんの詩がますます愛しくなりました。
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小さな草
風がどこからか運んできた一つぶのタネ
からうまれでた この一かぶの小さな草
人にふまれ くるまにけとばされ
でも花をさかせ 実をむすび その実は
風にたのんで知らないとおくへ運びおえ
まだこうして霜がおりるまではここで
夕やけに見とれ 風とあそんで生きている
この世に一つきりの自分をこんなに光らせて
この石だたみのすきまのかすかな湿りを
思い出つきないふるさとのわが家として
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