朝どれソング

朝どれソングとは...

ソングを毎月7日に2曲ずつ、二年間かけてお届けします。まずは萩京子作曲のソングを24曲、そして林光作曲のソングを24曲。とれたてのみずみずしい食べ物のように、みなさんのエネルギーの源になることを願って。
今月のソング(2020年2月7日公開)

♪舟唄〈沢井栄次〉
♪影とまぼろし〈梅村博美〉


映像:和久井幸一

【萩京子・極私的作品解説】

舟唄
詩:佐藤信、曲:林光

林光ソングの代表作と言えばこの「舟唄」なのだ。そのシンプルさにおいて。また、その明快さにおいて。
晶文社の「林光 音楽の本」の巻末には楽譜がついていて、楽譜は文章の反対側から(つまり本の後ろから)始まるのだが、そのトップに「舟唄」がある。メロディーとコードネームで書いてある。このソングは1967年劇団自由劇場公演『皇帝ジョウンズ』の劇中歌だ。有名な逸話としては、光さんは稽古場で稽古を見ながら、台本の片隅に手書きで五線を書いてメロディーを書いた、と聞いている。

   ゆうべあのこをだきながら
   おいらはそっときいてみた

「詩がそのまんまメロディーになっているだろう?」と光さんが言うのを何度か聞いたが、私は「そのまんま」ではないなあ、と感じている。
第一「ゆうべ」のところは下から「ゆーうべ」と6度も上がるし、2番の「すると」も3番の「それで」も、「すーると」「そーれで」と下から6度上がるメロディーは自然に語るように歌う、というのとはちょっと違うと思う。
だが、この6度の跳躍が「舟唄」らしさを感じさせているのかも知れない。
光さんは佐藤信さんの詩を定型詩としてとても評価している。1番、2番、3番という形のなかにきちっとことばが音としてはまっていて、そういう詩を書ける人は少ないんだ、とおっしゃるのを常々聞いていた。
このソングに出会ったときは、メロディー譜だったので、いろいろピアノ伴奏を工夫したのが、私と林光ソングとの出会いでもあり、思い入れもある。
一ツ橋書房から「林光・歌の本」(全4巻)が出て、ピアノ伴奏譜が一応定着した。とてもきれいな伴奏で、格調高くなっている。それももちろん良いが、コードネームでポロンポロンというような感じ、ギターで弾き語りするような素朴な味わいの「舟唄」も捨てがたい。

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舟唄

ゆうべあの娘を抱きながら
おいらはそっと訊いてみた
遠いところへ行きたくないか
旅へ出ないかおちびさん
舟をこぎ出しゃ 俺のもの
舟をこぎ出しゃ 俺のもの

するとあの娘は泣きながら
おいらをそっと抱きしめた
いいえあたいは行きたくないの
ここにこうしていたいのよ
舟をこいでも 無駄なこと
舟をこいでも 無駄なこと

それであの娘とおさらばさ
おいらはそっと家を出た
舟にとびのりもやいを解いて
海の向こうへ舵をとる
舟をこぎ出しゃ 俺のもの
舟をこぎ出しゃ 俺のもの



影とまぼろし
詩:山元清多、曲:林光

山元清多さんの詩による林光ソングを知ったのは、佐藤信さんの詩によるソングより後になってからだ。
佐藤信の詩、林光の曲によるソングの存在が、童謡でも歌謡曲でも歌曲でもない、そしてフォークソングとも違う「新しい歌=ソング」を示すひとつの指標になっていると私は思うのだが、山元清多さんの詩による林光ソングに出会うと、信さんの詩によるソングから立ち上る匂いとはちょっと違う色香を感じる。
私は一ツ橋書房の「林光・歌の本Ⅱ 恋の歌」を手にするまでは「影とまぼろし」を知らなかった。曲の構成も凝っていて、前半と後半は同主調(前半は短調、後半は長調)で、しかも揺れて行きつ戻りつするようなメロディーの進み方。すてきなピアノ伴奏譜もついている。
「影とまぼろし」は1972年黒色テント68/71公演『チャンバラ』の劇中歌で、『チャンバラ』は幕末の剣客、平手造酒(みき)が主人公の芝居だが、その劇を研究してもこのソングの謎めいた魅力の真相には届きそうにない。
山元清多さんの詩の色気をなんと評したら良いだろうか?
どちらかと言うとわかりにくい。
そのわかりにくさと、理屈では解明できない言葉の色気に誘われて、光さんはわけのわからない色っぽいメロディーを作り出してしまった。
ピアノ伴奏はいつ書かれたかわからないのだが、しっかり書き込まれている。
歌とピアノ伴奏が反応しあって、強烈な色香を紡ぎ出している。
「影とまぼろし」はそんなソングだ。

詩を表示

影とまぼろし

ままにならぬものと
知っているけれど
あんたのマボロシが
とっても惑わす
いまから その理由わけ 聞かせてあげよう

半信半疑の日盛りに
透けて見えない あんたがいると
はしったので
はずむはずの
胸のあたりが
うつろになって
あたしが 影に
なりますの
マボロシのように

そんなはずはないと
知っているけれど
あんたのマボロシが
とっても悩ます
いまから その理由わけ 聞かせてあげよう

手さぐりどおしの暗闇に
生あたたかな あんたの呼吸いき
薄着なのに
はだけたまま
胸のあたりに
埋まると
あたしが いなく
なりますの
マボロシのように

いないあんたに いるあたし
いないあたしに いるあんた
どっち?


♪ゆめ売り/♪明るいほうへ
2018-07-07


♪あくび/♪電車
2018-08-07


♪わたしのお月さま/♪枯れたオレンジの木のシャンソン
2018-09-07


♪餞/♪朝に晩に読むために
2018-10-07


♪唄/♪電線工夫
2018-11-07


♪うたかたのジャズ/♪青いカナリア
2018-12-07


♪空をかついで/♪小さな草
2019-01-07


♪しあわせはこぶ銀のロバ/♪暗い柳の木立のかげ
2019-02-07


♪ねむり/♪馬
2019-03-07


♪ジャストマイサイズ/♪帽子屋さんの子守歌
2019-04-07


♪水はうたいます/♪ひびかせうた
2019-05-07


♪雨/♪わたしの好きな歌
2019-06-07


♪石ころの歌/♪告別
2019-07-07


♪魚のいない水族館/♪舟のうた
2019-08-07


♪赤い魚と白い魚/♪ちょうちょうさん
2019-09-07


♪花のうた/♪ぼくがつきをみると
2019-10-07


♪わたしのすきなこなひきさん/♪やさしかったひとに
2019-11-07


♪銀河の底で歌われた愛の歌/♪サザンクロスの彼方できこえた父が息子にあたえる歌
2019-12-07


♪グランド電柱/♪だれが鈴をつけにいくのか
2020-01-07


♪舟唄/♪影とまぼろし
2020-02-07


♪つまさききらきら/♪月の船の歌
2020-03-07


♪運命のジャズ/♪旗はうたう
2020-04-07


♪壁のうた/♪行ってしまったあんた
2020-05-07


♪ものがたり/♪夢
2020-06-07



♪パレード/♪すき/♪明日ともなれば
2021-01-07


♪うた/♪しぬまえにおじいさんのいったこと/♪なぞなぞうた
2021-04-07


♪見えない月/♪みえないあみ/♪朝のパン
2021-07-07


♪飛行機よ/♪みみがさわる/♪果てしない波を渡るための歌
2021-10-07

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