朝どれソング

2021年オペラシアターこんにゃく座は創立50周年を迎えました。 2018年7月から2020年6月まで、「朝どれソング」として毎月2曲ずつソングをお届けしてきましたが、今年は創立50周年を記念して「朝どれソング 合唱版」と題し、1月、4月、7月、10月と年4回、各月3曲ずつ、林光と萩京子の合唱曲をお届けします。

★朝どれソングとは...★
林光、萩京子の作曲したソングをこんにゃく座歌役者が歌います。 とれたてのみずみずしい食べ物のように、みなさんのエネルギーの源になることを願って。

今月のソング(2021年7月7日公開)

♪見えない月/♪みえないあみ(新曲)/♪朝のパン

映像:和久井幸一

【萩京子・極私的作品解説】

見えない月
詩:佐藤信、曲:林光
歌:全員
ピアノ:萩京子


舞台のためのカンタータ「鼠たちの伝説」(安部公房「プルートのわな」より)の序曲として置かれている曲。
「鼠たちの伝説」は、林光さんが自らの合唱劇の出発点として位置づけている作品だ。台本と作詩は佐藤信さん。作曲された1970年代はまだ合唱劇ということばは生まれていなかった。合唱団が動きながら歌う作品はシアターピースと呼ばれていた。シアターピース作品をたくさん手がけていたのは柴田南雄さんで、合唱団が舞台の上を移動しながら歌う、あるいは客席を歩きながら歌うということが、それだけでも新鮮であり、新しい表現として受けとめられた時代だ。それらの作品を主に演出していたのが佐藤信さんであり、林光さんと佐藤信さんとは1960年代からの盟友と呼ぶべき協働者である。この「鼠たちの伝説」のテキストを佐藤信さんに書いてもらうことを林光さんが願ったとき、来るべき「合唱劇」のイメージが膨らみはじめていたのかもしれない。
委嘱はNHK大阪局で、1976年度芸術祭合唱部門参加作品としての放送初演だったが、いずれ舞台での初演のイメージを持って、この「鼠たちの伝説」が作られたのだと私は思っている。
しかし、放送初演の際も、日本合唱協会による舞台での初演(1977年11月7日)の際も、まだ序曲であるこの「見えない月」は作曲されていなかった。
この「見えない月」が作曲されたのは1980年。初演したのは、こんにゃく座だ。1980年8月27日中野区民センターで行なわれた「もうすぐ10周年こんにゃく座スペシャル、ソング篇」で独立した合唱曲として初演し、同年9月12日「オペラ篇」で、萩京子のオペラ第一作『なにもないねこ』とともに「鼠たちの伝説」を上演した際に、「見えない月」を冒頭に置くことで、はじめて佐藤信によって書かれたテキスト全曲が初演されたことになる。 オペラ事始めの題材である「オルフォイスとオイリディケ」の物語の冒頭に置かれたこの「見えない月」の意味するものはなんだろうか?
1月から12月までを、長い歴史のなかに見え隠れする無数のひとびとの姿に託して歌い、やがて訪れるかもしれない13月を思う歌。祈り、歌い、夢見る……ことを最後にことばでは否定しているが、この歌は、祈り、歌い、夢見ることを否定していない。
太鼓が使われている。私は、この曲によって太鼓へのあこがれを呼びさまされた。

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見えない月

1月—
皿のスープを分け合う人びと
2月—
身体を寄せて暖め合う人びと
3月—
星の名前を教え合う人びと
4月—
子供たちの手をひき川を渡る人びと
5月—
地図の上しるしつける人びと
6月—
沢山の便りを書きつづける人びと
7月—
明方の空を語り合う人びと
8月—
午後の木陰に石を置く人びと
9月—
小さな傷を忘れない人びと
10月—
堕ちたつばめに繃帯ほうたい巻く人びと
11月—
目をこらし見つめる人びと
12月—
新しい墓の土をもる人びと
13月—
見えない月よ
すぐそこにある
13月—
見えない月よ
祈らずに
歌わずに
夢見ずに





みえないあみ
詩:谷川俊太郎、曲:萩京子
歌:梅村博美、相原智枝、岡原真弓

ひらがなだけで書かれている詩。
声に出せばすべてのことばの意味と響きが立ち上がる。
すでにそれは歌だ。
谷川さんのひらがなの詩が好きだ。
「あ、これを歌にしてみたい」という気持ちが起きるときは、ことばの方も私の方を向いてくれているのかもしれない。詩に曲をつけるときは、ことばと仲良くしていたいと思う。
 
「そらにかかるみえないあみ」で始まる5行。
「じめんのしたのからみあうねっこ」で始まる5行。
そこまでと、最後の一行「だれもひとりではいきていけない」は、ずいぶん違う。
一瞬突き放されたようなショックを受ける。
でも、ことばを抱きしめかえすような気持ちで作曲した。

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みえないあみ

そらにかかるみえないあみ
そのあみのめのひとつがあなた
ひとつがわたし しってることを
あなたにおしえる しらないことを
あなたにおそわる いいきぶん
 
じめんのしたのからみあうねっこ
そこにもいるあなたとわたし
そらのうえでじめんのしたで
わたしとあなたはむすばれている
こどもとおとなも てきとみかたも
 
だれもひとりではいきていけない



朝のパン
詩:石垣りん、曲:萩京子
歌:佐藤敏之、太田まり、島田大翼、沖まどか、武田茂、小田藍乃、高岡由季、吉田進也
ピアノ:萩京子

石垣りんの詩による五つの混声合唱曲「朝のパン」のなかの1曲目。
1999年1月23日、合唱団「あるしす」によって初演された。
トースターからパンが飛び出す様子を、太陽が地平線から顔を出すことになぞらえることができる石垣りんさんの感覚にとても心惹かれた。そこから命について想いを馳せるなんて、すごい。とてもステキだ。
どんなものも歌にできる。詩的なことば、美しいことばを求めるのではなく。
日常を歌うこと。日常のことばを歌にすること。
そういうことをめざしたいと気づかせてくれた詩。

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朝のパン

毎朝
太陽が地平線から顔を出すように
パンが
鉄板の上から顔を出します。
どちらにも
火が燃えています。
私のいのちの
燃える思いは
どこからせり上がってくるのでしょう。
いちにちのはじめにパンを
指先でちぎって口にはこぶ
大切な儀式を
「日常」と申します。
やがて
屋根という屋根の下から顔を出す
こんがりとあたたかいものは
にんげん
です。


♪ゆめ売り/♪明るいほうへ2018-07-07
♪あくび/♪電車2018-08-07
♪わたしのお月さま/♪枯れたオレンジの木のシャンソン2018-09-07
♪餞/♪朝に晩に読むために2018-10-07
♪唄/♪電線工夫2018-11-07
♪うたかたのジャズ/♪青いカナリア2018-12-07
♪空をかついで/♪小さな草2019-01-07
♪しあわせはこぶ銀のロバ/♪暗い柳の木立のかげ2019-02-07
♪ねむり/♪馬2019-03-07
♪ジャストマイサイズ/♪帽子屋さんの子守歌2019-04-07
♪水はうたいます/♪ひびかせうた2019-05-07
♪雨/♪わたしの好きな歌2019-06-07
♪石ころの歌/♪告別2019-07-07
♪魚のいない水族館/♪舟のうた2019-08-07
♪赤い魚と白い魚/♪ちょうちょうさん2019-09-07
♪花のうた/♪ぼくがつきをみると2019-10-07
♪わたしのすきなこなひきさん/♪やさしかったひとに2019-11-07
♪銀河の底で歌われた愛の歌/♪サザンクロスの彼方できこえた父が息子にあたえる歌2019-12-07
♪グランド電柱/♪だれが鈴をつけにいくのか2020-01-07
♪舟唄/♪影とまぼろし2020-02-07
♪つまさききらきら/♪月の船の歌2020-03-07
♪運命のジャズ/♪旗はうたう2020-04-07
♪壁のうた/♪行ってしまったあんた2020-05-07
♪ものがたり/♪夢2020-06-07
♪パレード/♪すき/♪明日ともなれば2021-01-07
♪うた/♪しぬまえにおじいさんのいったこと/♪なぞなぞうた2021-04-07
♪見えない月/♪みえないあみ/♪朝のパン2021-07-07