◆2 「天国と地獄」ってこんなお話し 2018-1-15
「天国と地獄」と言えば、運動会の徒競走のあのBGMや、文明堂カステラの♪カステラ一番、電話は二番〜のあのCMでもおなじみの曲をどこかで聞いたことがあっても、こんなにはちゃめちゃで楽しい物語だったとは…。
今回、公演のために座員全員対象に、稽古場にて音楽評論家・小村公次さんによる「天国と地獄」についての勉強会を開催しました。その時の貴重なお話、資料を元に、そして、衣裳デザインの太田雅公さんの衣装画による登場人物紹介、楽しい!動画を交えて紹介します。
【あらすじ】
音楽教師オルフェとユリディス夫婦は、倦怠期真っ只中。オルフェはモナムール(愛人)に、ユリディスは羊飼いアリステ(実は地獄の王プルート)にそれぞれ夢中。ある日、ユリディスは、仕掛けられた罠にかかり、死んでしまう。
妻に愛想をつかしていたオルフェは、大喜び。ところがそこにセロンとヨロンいう名の男女が登場し、不謹慎を諫め、妻を取り返しに行くべきだと言う。オルフェはしぶしぶ妻を取り返しに天国へ行ってみると、ユリディスはプルートによって地獄に幽閉されていた。
神々の王ジュピター(女好き)は、ユリディスに興味を持ち、地獄へ行くと言い出すと、退屈していた神々は、ワレもワレもと地獄へと出かけて行く。
ジュピターは、そこで蠅に姿を変え、部屋の中へ忍び込みユリディスに近づき、一緒に天国へと行こうとするが、プルートにみつかり大騒ぎ。ジュピターはとうとう「絶対に振り向かなければ妻を返してやる」と約束するも、まったく振り返らないオルフェを無理矢理に振り向かせる。ユリディスをオルフェに返す約束は無効となり、ユリディスを誰のものともせず、酒神のバッカスの巫女とし、最後はバッカスを讃えて、天国と地獄、入り乱れてのどんちゃん騒ぎの大祝祭!
【こんな作品】
作曲のオッフェンバックとは?
1819年、オッフェンバック(本名ヤーコブ・エーベルスト)、ドイツの町ケルンで生まれる。
■14歳:チェロを学ぶためにパリへ行き、外国人を入学させないという音楽院に、院長の前で演奏し、その才能を認められ特別に入学許可されるも、すぐに音楽院も辞め、オペラ・コミック座でチェロ奏者として活動する。
■17歳:作曲したワルツが高く評価され、パリの社交界で活躍するようになる。
■25歳:結婚。サロンの音楽家として、チェロ演奏と作曲で活躍を続ける。
■31歳:コメディ・フランセーズ(1680年結成のフランス国立劇団)の音楽監督に就任。舞台音楽を作曲する。
チェロ奏者としてスタートした彼の音楽人生、その後の劇場音楽人としての活動が、彼を優れたオペレッタ作曲家へと育てていったのかもしれません。
「天国と地獄」(原題「地獄のオルフェ」)を作曲したのは、39歳。オペレッタ作曲家として大活躍したオッフェンバックの唯一のオペラ大傑作の「ホフマン物語」は、彼が61歳で亡くなったその翌年に初演されました。
「サロンめぐりをしていた頃のオッフェンバック」
初演は160年前。パリのブッフ・パリジャン座
36歳のオッフェンバックは、パリのシャンゼリゼ通りにあった見世物小屋を買い取り、「ブフ・パリジャン座」と名を変え、おもに1幕物のコメディーを上演する劇場としてオープンさせました。劇場の赤字解消にはヒット作が必要となり誕生したのが「天国と地獄」(原題「地獄のオルフェ」)。作品はパリで大評判!となり、なんと、228回も連続上演され、オッフェンバックを、時代の寵児へと押し上げました。
オッフェンバック54歳の時に支配人となったゲテ座での「地獄のオルフェ」復活上演時のポスター(1874年)
痛烈な風刺と痛快なユーモア
社会が抱えていた偽善性や矛盾を風刺することで世相を取り入れ、こうして作品は完成し、大成功を収めたという当時の「天国と地獄」。こんにゃく座も、時代や設定、対象もさまざまなオペラ作品を生み出してきていますが、どの作品も、常に社会との繋がりや風刺精神、そしてユーモアが大きな要素としてあります。まさにこんにゃく座が取り組むべき古典作品なのです!
元ネタは、ギリシャ神話。そのパロディ
ギリシャ神話に登場する「オルフェ」の物語は…妻ユリディスの死を悲しむ歌と竪琴の名手、夫オルフェが地獄へ、妻をとりもどしに行くという話。 しかし、「天国と地獄」では…倦怠期の夫婦は夫も妻も浮気中。夫オルフェは妻ユリディスがあの世へ旅立ち喜んでいると、世論から非難され、しぶしぶ妻をとりもどしにいく……といった偽善に満ちた夫婦の滑稽さも風刺しています。
「オルフェオ伝説のパロディー化(物語の途中まで)」小村公次さん「天国と地獄」勉強会より。
しかも、登場する神々の王ジュピターをはじめとする天国の神様たち、地獄の王プルートもみんな、個性的なこんにゃく座の歌役者たちによってさらに人間くさく、愛嬌たっぷりに描かれます。
【人物相関図】
*こんにゃく座 喜歌劇『天国と地獄』
【登場人物紹介】
*こんにゃく座 喜歌劇『天国と地獄』
衣裳画:太田雅公
オルフェ Orpheus 沢井栄次 音楽教師。バイオリンがうるさい。妻以外のモナムール(愛人)に夢中。神話では竪琴の名手。 | |
ユリディス Eurydice 梅村博美/鈴木あかね オルフェの妻。蜂蜜製造兼羊飼いのアリステと浮気してる。神話では精霊。 | |
プルート Pluto 野うるお 地獄の王。人間界では蜂蜜製造兼羊飼いアリステに化ける。 | |
ジュピター Jupiter 大石哲史 神々の王。全知全能。変化の術に精通する。ギリシャ名ではゼウス。 | |
ジュノー Juno 相原智枝/彦坂仁美 ジュピターの妻。婚姻を司る女神。とても嫉妬深い。 | |
ダイアナ Diana 花島春枝/山本伸子 ジュピターの娘。ギリシャ名ではアルテミス。月を司る狩の女神。 | |
キューピット Cupid 豊島理恵/青木美佐子 愛の天使。男の子。 | |
ヴィーナス Venus 齊藤路都/鈴木裕加 美の女神。 | |
マーキュリー Mercury 島田大翼/北野雄一郎 幸運・富裕・伝令の神。 | |
アポロ Apollo 北野雄一郎/島田大翼 音楽・医術・弓術などの神。神話ではオルフェの父。 | |
マルス Mars 武田茂/佐藤敏之 戦争を司る軍神。 | |
ハンス Hans 佐藤敏之/武田茂 もとはアルカディアの王子。今は地獄でプルートの奴隷。 | |
ミネルヴァ Minerva 西田玲子 知恵・商業・魔術などを司る女神。 | |
ヘスティア Hestia 沖まどか かまどの女神。神話ではジュピターの姉。 | |
デメテル Demeter 大久保藍乃 穀物・大地の女神。神話ではプルートの妻ペルセポネの母。 | |
セイレン Siren 高岡由季 美声で船人を誘惑する海の魔女。 | |
世論 せろん 岡原真弓 世論(せろん)とは、世の中の多くの人々が共有している意見、もしくは大多数の賛同が得られている考えのことを指す。気分や人気に基づく意見・感想のようなもので、よくよく考え抜いた末の見解ではないので、時間とともに変化、消化しやすいと言えるであろう。 | |
与論 よろん 富山直人 与論(よろん)とは、世の中の多くの人々が共有している意見、もしくは大多数の賛同が得られている考えのことを指す。理性的な討議・討論を重ねた末に導き出された社会的な合意のことであり、それが正しいかそうでないかは別として、一度確立されると簡単には覆らない。 |
【最後に…】
オペラ座の高尚なオペラとは別の、大衆の娯楽のとことん喜歌劇として、しかし音楽的質の高さや芸術性のその両方の両立を目指したという、オッフェンバックの「天国と地獄」。
この喜歌劇の最後は、理屈や辻褄などどうでもよくなるくらい、圧倒的な音楽の中、天国と地獄入り乱れての大宴会で終わります。こんにゃく座の喜歌劇『天国と地獄』も、世の中の閉鎖的で鬱屈した空気をぶっ飛ばしていくような、生の舞台の底抜けに明るいパワーと、その後にふと訪れるなんとも言われぬ恐怖感とまさに“天国と地獄”、私たちはその両方を抱えて、“いま”をいく!という揺るぎないエネルギーを届けられるといいな、と思います。