タングな座談会~A組編
2017-03-20


『タング』稽古も半ばとなり出演者たちによる座談会を行ないました。
今回はダブルキャストA組の4人(少年役・泉篤史、タング役・武田茂、クミン役・沖まどか、ナツメグ役・西田玲子)に、稽古の内容や作品について尋ねました。

・ ・ ・ ・ ・

―今回それぞれのキャラクターづくりはどのように進めているの? 演出の大石さん(大石哲史)の方針で、稽古の前半はまずお芝居で場面をつくっていくということに取り組んだようですね。

西田玲子

2005年入座、東京都出身。オペラ『タング-まほうをかけられた舌-』では、カレー屋を訪れる客、味覚の鋭いチンピラ、カレーに目のない作曲家などを演じる。(写真は2011年、オペラ『ねこのくにのおきゃくさま』より、旅人・いもうと役)
西田/私とまどかが演じる「コロス」にとって、曲がないところでまずキャラクターづくりをすることは個性を確立していきやすくて良い気がする。「少年」は台本に書かれているからつかみやすいし、タングも個性が強いから・・・。でもタングは、音が加わるといろいろと見え方が変わるんじゃないかな。

武田/その人のつくりかたの考え方じゃないかな。僕は台詞で芝居をどんどんやっていって、そのあとに曲が加わったときに、そのふたつの違いはどうしてなのかな?と、比べることでいろいろと考えることができるし、客観性も持つことができるからやりやすいな。

西田/なるほど。

武田/演出家の加藤直さんも言ってたことがあったけど、その曲が当たり前で、与えられているから正しいと思って歌うと、どこか嘘っぽく聞こえてくるときがあるんだよね。

西田/音楽に流されちゃうってこと?

武田茂

2010年入座、茨城県出身。オペラ『タング-まほうをかけられた舌-』では、味の妖精タングと、謎の男を演じる。(写真は2013年、オペラ『アルレッキーノ~二人の主人を一度に持つと』より、パンタローネ役)
武田/そうそう。だから台本で自分の気持ちならこう言うなっていうところをきちんと捉えておいて、それから作曲ができたときに、なんで萩さん(萩京子)、こう作ったのかな?ってやらないと、キャラクターの深みが出てこないと思うんだ。自分は芝居づくりが好きだし、曲がないところで読み合わせて立ち稽古までいくのは、僕は好きなんだよね。

―自分の解釈と、作曲にこめられた(作曲家の)演出意図と、この差を考えてみるってことですね。

武田/そう。でも考えられる時と、どうにも考えられない時もある。萩さんの作曲などは、本当にどうしてこういう斬新な発想が出てくるんだろうと、自分のイメージとはかなりかけ離れているときもあるからね。

西田/分かる、分かる。わざと裏切ってくる時もあるよね(笑)。

―『タング』のお話の始まりはコロスの二人がレストランのお客としてやってくるところから始まるよね。即興で演じる稽古を繰り返していたけど、少年やタングの登場とどのようにつながっていくのかな?

泉篤史

2015年入座、新潟県出身。オペラ『タング-まほうをかけられた舌-』では、カレー屋を継いだ味のわからない少年を演じる。(写真は2015年、オペラ『ロはロボットのロ』より、シオン役)
/大石さんは、コロスの二人を漫才コンビのような関係にしたいらしい。たしかに少年とタングの二人の関係性とは違ってる。

武田/全体としては「軽演劇」のようにしたいんじゃない?

西田/コメディーってこと?

武田/そうじゃなくて昔の浅草オペラのような。歌舞伎や新劇みたいな芝居ではなくて、もっと軽やかなお芝居。それとか、旅芸人たちがやっていた当意即妙の掛け合いのなかから生まれてくるお芝居のようなイメージかな。大石さんのなかではコロスの二人はそうした要素を持ちながら、もっと現代的なセンスの漫才みたいにしちゃって、オペラ自体も軽演劇の要素のある、コミカルな仕立てにしたいんじゃないかなと思うよ。

沖まどか

2009年入座、大阪府出身。オペラ『タング-まほうをかけられた舌-』では、カレー屋を訪れる客、シミの成分がわかるクリーニング屋、カレー好きな泥棒などを演じる。(写真は2012年、オペラ『森は生きている』より、もうひとりのむすめ役)
/“芝居芝居した感じ”ではないと私も思う。稽古では「心理描写に逃げないように」とよく言われるから。こうした作り方は大石さん自身がやってきたキャラクターづくりじゃないかなぁ。なかなか難しいんだけど・・・。

西田/最初に台本を読んだ時には、お話の本筋の登場人物である少年やタングの二人と、コロスってちょっと遠い位置にいるんじゃないかなと感じていたんだけど、稽古が進むにつれて、少年と関わり、さらにタングが登場してきた時に、あれっ、コロスって、もしかしたらタングの手下たちなのかな?という感じがした。4人の関係はもっと入り組んだ立体的な感じになるんじゃないかな、と。

―そんなふうにつながっていくと面白い世界がつくれるかもしれないね。

西田/タングと少年のやりとりが始まると、私たちコロスの世界と重なって、全体が“丸く”なっていくんだと最近は思い始めてきた。

/タングの手下っていうのが良いですよね!

西田/そう。タングの手下なのか、あるいはタングが私たちの手下ってこともあるかもよ。
まずコロスがお話の世界をつくっていくのはなぜなのか?とか、冒頭のお客の掛け合いもその後のお話の展開に何か意図することがあるんじゃないか?とか、タングをコロスが出現させているのかもしれないし、全く違うと思っていたものが実は一緒のものだったり、とか。

―さらに興味深くなってくるね(笑)。ところで、みんなは「まほうをかけられた舌」というお話をどう捉えている? 原作は読んだ?

/僕は原作を読んで、台本とはかなり違うなって。

西田/私は原作を読むと、台本との違いが気になっちゃう。台本に書いてあることをお客さんに伝えることが大切と思うから、基本原作は読まない。どうしても疑問に思った時には読むこともあるけれど・・・。

/台本だけだと自分の演じるキャラクターをつくることができないと思う。台本が大事なことは一番だと思うけど、その根底にあるものを知ることでいろいろなアイデアが浮かぶから、僕は読みました。

武田/少年は原作にたくさん書かれているから、読んだ方が分かりやすくなるだろうね。

/何度も読んでいくうちに、僕は少年像にすごく親近感が湧いてきたんですよ。やらなきゃいけないことがあっても、なんとかなるだろうって信じて、自分のやりたいことに流されちゃう男の子って、自分とすごく似ていると思う。だから少年のキャラクターづくりに活かせるんじゃないかなって。

―台本の朝比奈(尚行)さんも、のんびりしていて怠け癖のある子供って当たり前で、このオペラを観るほとんどの子供たちは少年に共感を持つはずという信念があるようだよ。

西田/萩さんもそれ言ってたよね。

/私もこういうところあるわって気持ちあるもん。

3人/うん、うん。

―子供たちにはこのお話のどういうところを見てほしいって思う?

西田/少年のようにちょっと失敗しちゃうこともあるけど、でもその子はもう一度いつだってやり直しができるんだよってことを、演出助手のちゃみ(熊谷みさと)さんの「今日があなたの生きている日で一番若い日です」という言葉とともに伝えたい!

―それ、なに?

/ちゃみは「やるのに早いに越したことはない」ってことだって。

西田/先延ばしにしちゃって、もっと前からやっておけば良かったと後悔することもあるかもしれないけど、とにかく今始めることが最善なんだってことを言ってたの。間違ってしまっても、それを正すことは今日から始めることができるよって。

―なるほど。

武田/(少年の)お父さんの見方から言うと、この味を受け継いでもらいたいなとか、この店をきちんと受け渡したいなという思いが、タングという存在によって、少年に伝わっていく。親というのは子供をずっと見守っているんだよということを子供たちが感じてくれたらいいなあ。
あとは「味」って、「芸」や職人なんかの「技」に通じるところがあると思うんだ。だから味を極めるということと同じように、もうこれでいいやって思わずに、もっといろんな発想をふくらませていくことにつながっていくと良いかな。

/台本に少年がちゃんと成長したのか結末が描かれていなくて完結していないところがいい。自分ってダメだなと感じているところから、もう一度やっていこうと奮起するところで終わっているから、観ている子供たち一人一人の自分のことにつながっていくんじゃないかな?結末を自分たちでつくっていくのはこれからなんだよと感じてもらいたいな。

―最後に、このA組のみどころは?

西田/明るさかな~(笑)。

/西田玲子のつくりだす明るさ、この笑い声・・・。

武田/アンサンブルかな。

西田/個性の強さ、そこに面白みがでると思う。

/玲子さんの特徴のあるアルトに、自分のソプラノっぽくない、だけどソプラノ。響きのある茂さんの声に、これからどう特徴をみせてくるかまだ分からない泉くん。だけど悪くない方向にいっていると思う。

西田/私が最初にこんにゃく座の歌を聞いて思った、いろんな人の声が個性的に聞こえているのに、だけど音楽としてひとつ!というところを目指したいなあ。

/僕は・・・、とにかくがんばります!!と、宣言しておきます。


(2017年2月26日)
聞き手・土居麦/こんにゃく座制作

オペラシアターこんにゃく座
〒214-0021
神奈川県川崎市多摩区宿河原7-14-1
044-930-1720
info@konnyakuza.com