タングな座談会〜A組編
2017-03-20
『タング』稽古も半ばとなり出演者たちによる座談会を行ないました。
今回はダブルキャストA組の4人(少年役・泉篤史、タング役・武田茂、クミン役・沖まどか、ナツメグ役・西田玲子)に、稽古の内容や作品について尋ねました。
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―今回それぞれのキャラクターづくりはどのように進めているの? 演出の大石さん(大石哲史)の方針で、稽古の前半はまずお芝居で場面をつくっていくということに取り組んだようですね。
武田/その人のつくりかたの考え方じゃないかな。僕は台詞で芝居をどんどんやっていって、そのあとに曲が加わったときに、そのふたつの違いはどうしてなのかな?と、比べることでいろいろと考えることができるし、客観性も持つことができるからやりやすいな。
西田/なるほど。
武田/演出家の加藤直さんも言ってたことがあったけど、その曲が当たり前で、与えられているから正しいと思って歌うと、どこか嘘っぽく聞こえてくるときがあるんだよね。
西田/音楽に流されちゃうってこと?
―自分の解釈と、作曲にこめられた(作曲家の)演出意図と、この差を考えてみるってことですね。
武田/そう。でも考えられる時と、どうにも考えられない時もある。萩さんの作曲などは、本当にどうしてこういう斬新な発想が出てくるんだろうと、自分のイメージとはかなりかけ離れているときもあるからね。
西田/分かる、分かる。わざと裏切ってくる時もあるよね(笑)。
―『タング』のお話の始まりはコロスの二人がレストランのお客としてやってくるところから始まるよね。即興で演じる稽古を繰り返していたけど、少年やタングの登場とどのようにつながっていくのかな?
武田/全体としては「軽演劇」のようにしたいんじゃない?
西田/コメディーってこと?
武田/そうじゃなくて昔の浅草オペラのような。歌舞伎や新劇みたいな芝居ではなくて、もっと軽やかなお芝居。それとか、旅芸人たちがやっていた当意即妙の掛け合いのなかから生まれてくるお芝居のようなイメージかな。大石さんのなかではコロスの二人はそうした要素を持ちながら、もっと現代的なセンスの漫才みたいにしちゃって、オペラ自体も軽演劇の要素のある、コミカルな仕立てにしたいんじゃないかなと思うよ。
西田/最初に台本を読んだ時には、お話の本筋の登場人物である少年やタングの二人と、コロスってちょっと遠い位置にいるんじゃないかなと感じていたんだけど、稽古が進むにつれて、少年と関わり、さらにタングが登場してきた時に、あれっ、コロスって、もしかしたらタングの手下たちなのかな?という感じがした。4人の関係はもっと入り組んだ立体的な感じになるんじゃないかな、と。
―そんなふうにつながっていくと面白い世界がつくれるかもしれないね。
西田/タングと少年のやりとりが始まると、私たちコロスの世界と重なって、全体が“丸く”なっていくんだと最近は思い始めてきた。
沖/タングの手下っていうのが良いですよね!
西田/そう。タングの手下なのか、あるいはタングが私たちの手下ってこともあるかもよ。
まずコロスがお話の世界をつくっていくのはなぜなのか?とか、冒頭のお客の掛け合いもその後のお話の展開に何か意図することがあるんじゃないか?とか、タングをコロスが出現させているのかもしれないし、全く違うと思っていたものが実は一緒のものだったり、とか。
―さらに興味深くなってくるね(笑)。ところで、みんなは「まほうをかけられた舌」というお話をどう捉えている? 原作は読んだ?
泉/僕は原作を読んで、台本とはかなり違うなって。
西田/私は原作を読むと、台本との違いが気になっちゃう。台本に書いてあることをお客さんに伝えることが大切と思うから、基本原作は読まない。どうしても疑問に思った時には読むこともあるけれど・・・。
泉/台本だけだと自分の演じるキャラクターをつくることができないと思う。台本が大事なことは一番だと思うけど、その根底にあるものを知ることでいろいろなアイデアが浮かぶから、僕は読みました。
武田/少年は原作にたくさん書かれているから、読んだ方が分かりやすくなるだろうね。
泉/何度も読んでいくうちに、僕は少年像にすごく親近感が湧いてきたんですよ。やらなきゃいけないことがあっても、なんとかなるだろうって信じて、自分のやりたいことに流されちゃう男の子って、自分とすごく似ていると思う。だから少年のキャラクターづくりに活かせるんじゃないかなって。
―台本の朝比奈(尚行)さんも、のんびりしていて怠け癖のある子供って当たり前で、このオペラを観るほとんどの子供たちは少年に共感を持つはずという信念があるようだよ。
西田/萩さんもそれ言ってたよね。
沖/私もこういうところあるわって気持ちあるもん。
3人/うん、うん。
―子供たちにはこのお話のどういうところを見てほしいって思う?
西田/少年のようにちょっと失敗しちゃうこともあるけど、でもその子はもう一度いつだってやり直しができるんだよってことを、演出助手のちゃみ(熊谷みさと)さんの「今日があなたの生きている日で一番若い日です」という言葉とともに伝えたい!
―それ、なに?
沖/ちゃみは「やるのに早いに越したことはない」ってことだって。
西田/先延ばしにしちゃって、もっと前からやっておけば良かったと後悔することもあるかもしれないけど、とにかく今始めることが最善なんだってことを言ってたの。間違ってしまっても、それを正すことは今日から始めることができるよって。
―なるほど。
武田/(少年の)お父さんの見方から言うと、この味を受け継いでもらいたいなとか、この店をきちんと受け渡したいなという思いが、タングという存在によって、少年に伝わっていく。親というのは子供をずっと見守っているんだよということを子供たちが感じてくれたらいいなあ。
あとは「味」って、「芸」や職人なんかの「技」に通じるところがあると思うんだ。だから味を極めるということと同じように、もうこれでいいやって思わずに、もっといろんな発想をふくらませていくことにつながっていくと良いかな。
沖/台本に少年がちゃんと成長したのか結末が描かれていなくて完結していないところがいい。自分ってダメだなと感じているところから、もう一度やっていこうと奮起するところで終わっているから、観ている子供たち一人一人の自分のことにつながっていくんじゃないかな?結末を自分たちでつくっていくのはこれからなんだよと感じてもらいたいな。
―最後に、このA組のみどころは?
西田/明るさかな〜(笑)。
沖/西田玲子のつくりだす明るさ、この笑い声・・・。
武田/アンサンブルかな。
西田/個性の強さ、そこに面白みがでると思う。
沖/玲子さんの特徴のあるアルトに、自分のソプラノっぽくない、だけどソプラノ。響きのある茂さんの声に、これからどう特徴をみせてくるかまだ分からない泉くん。だけど悪くない方向にいっていると思う。
西田/私が最初にこんにゃく座の歌を聞いて思った、いろんな人の声が個性的に聞こえているのに、だけど音楽としてひとつ!というところを目指したいなあ。
泉/僕は・・・、とにかくがんばります!!と、宣言しておきます。
(2017年2月26日)
聞き手・土居麦/こんにゃく座制作
聞き手・土居麦/こんにゃく座制作