こんにゃく座と宮澤賢治
◆オペラ『想稿・銀河鉄道の夜』出演者インタビュー その4
2016-12-07
■こんにゃく座に入ったきっかけ
冬木/富山から上京して来て、学芸大学に入学してすぐ、友人に面白そうなゼミがあるから見学に行ってみようと誘われて、音楽教育の自主ゼミ「おとみっく」を見学しに行き、自主活動でやっていた「魔法の笛」の映像を見たのが最初で、気づいたらそのゼミに参加していました。その年に「森は生きている」に取り組んだんですけど、演出・歌唱指導で来ていた大石さん(大石哲史)と出会い、そこでこんにゃく座のことを知りました。
―学芸大学に入学したのは、もともと音楽の先生になろうかなぁと思っていたから?
冬木/それはちょっと違っていて…、音楽を勉強しに東京へ行きたくて、でも私立の音大は経済的に無理だろうと思い、国立大学で音楽の勉強できる学校ということで学芸大学を受けました。その時は、大学で音楽の勉強ができたら、もう仕事としては音楽はやめようと思っていて、音楽の先生になろうというつもりでもなかったんです。もともと中学・高校と吹奏楽部で、大学もクラリネット専攻で入りました。楽器はとても好きだったのですが、勉強をするだけしてもうやめようと。あとは趣味にしようと、そんなふうに思っていました。小さい頃からまわりに音楽が溢れて育ったわけではなかったので、とにかく専門的に音楽を学べるような環境に身を置きたかったんです。
―その時は、歌でなく、楽器だったのね。
冬木/歌を人前で歌ったのは大学に入ってからで、もともと人前で歌うなんて苦手でした。人前で話すのも苦手で…。ゼミでは歌専攻でなくても大丈夫!ということで勧誘されて、不思議とゼミでは歌うことに大きなハードルはなかったですね。
―そこで歌うことに目覚めたってことですね。クラリネットより歌だ!って思ったってこと?
冬木/大学の自主活動の中でだんだん歌の方に傾いていったって感じですね。こんにゃく座のやってきたスタイルはとても面白かったです。
―そこから、なぜこんにゃく座に入り、歌うことを仕事として生きていこうって思ったのでしょう?
冬木/将来についてはいろいろ悩んでいて、どの道に行くのが自分にとって良いのだろうかと悩み、でも結局好きなことを仕事にしたいと思ったんですね。それで、大学でこういう世界に出会って、自分とは違う人を演じるということをやってみて、本当の自分とは違うものになるというのが面白い!という感覚を初めて体験しました。違うものを楽しむっていうのか…、演じる楽しさを発見してしまったんですね。そのことを知ってから、徐々に自分自身も考え方が変わっていって、なんというか楽になって、だからそういうきっかけを教えてくれた世界に、もう少しのめり込んでみたくなったというのが正直な気持ちです。
―演じるということでは、お芝居メインの他の劇団や団体もたくさんあるけれど、他のところは考えなかった?
冬木/こんにゃく座のオペラでは、よりその人、その個人がでるというところがとても魅力的で、ほかの芝居の劇団とかではなくて、こんにゃく座は特別でした。こんにゃく座にはいっていなければ、音楽もやめて何をやっていたでしょうね…。
卒業してすぐは、こんにゃく座での歌い手募集も無くて、1年間は塾(オペラ塾)で参加しました。
■宮澤賢治作品との出会い
冬木/小学校5年生の時に教科書に「やまなし」が載っていたのを読んだのが初めてでした。その時の担任の先生が宮澤賢治作品が大好きで、学級文庫いっぱいに宮澤賢治作品が並んでいて、朝の読書の時間に毎日読んでいました。登場人物が死んでしまうことも多いので、こどもの頃はそういうのがただ悲しかったり、残酷に感じていました。でも見たことない情景描写だったり、聞いたこともない言葉の言い回しだったり、登場人物のとった行動にしても、独特な表現で、それが新鮮でワクワクしました。しかし、いつも読み終わったあとに、これは何を言いたかったのだろうか、なんだかもやもやが残る感じでした。
―賢治作品では何が好きだった?
冬木/賢治の作品の中では、「雪わたり」が一番好きです。雪を踏みしめる音を「キックキックトントン」って書かれていて、そういう部分が楽しくて好きでした。他にも好きな作品はいろいろあるのですが、賢治作品は動物や生き物でない登場人物がたくさん出てきて、それらと人とが対等に扱われて、物語が繰り広げられているところが面白いと思います。
■オペラ『想稿・銀河鉄道の夜』について
冬木/子どもの頃に読んだ時と違う感じなのは、人が突然いなくなってしまうということをおとなになって経験して、死んだ人はどこにいってしまうんだろうとか、死をとても身近なものとして感じました。
オペラはDVDでしか見ていないのですが、青年役がザネリ役になっていくところ、銀河鉄道の中で起こっていることと、現実がシンクロしていくところがすごく衝撃的でした。
本で読んでいると、大学士とか鳥捕りとか、各キャラクターが何を言っているのかな、と考えてしまうようなところもオペラだとわかりやすく、すっとはいってくる。わかりにくい作品だなぁという印象を持っていても、観てもらえると印象は変わると思います。古くささを感じさせないし、今の時代に通じるものがあると思います。
本公演デビューなので、不安と期待でいっぱいですが…、よくわからないなぁと思っていた方々も構えずに楽しんでもらえたらと思います。
(聞き手・忠地あずみ/こんにゃく座制作)