◆2 吉川和夫・萩京子・寺嶋陸也
三人の作曲家への40の質問 その2

2017年緋国民楽派 第15回作品演奏会。左から、寺嶋陸也さん、萩京子、吉川和夫さん

Q21. 作曲家としての一番の喜びはなんですか。

吉川/やりきった感をもって仕上げられた時。

萩 /演奏する人、聞く人が、何かを感じてくれること。そして喜んでくれること。

寺嶋/作った曲がまず演奏家に共感されて、優れた演奏によって自分が考えていたよりもさらに良い曲に変貌し、お客さんにもその良さが伝わったと実感できたとき、一番の喜びを感じます。


Q22. 憧れている(または、憧れていた)作曲家は誰ですか。その理由も。

吉川/修業時代に出会った何人かのプロの作曲家。使ったことのない大きな五線紙と鉛筆の筆致にワクワクしました。少し後からは、師である間宮芳生先生の仕事ぶり。越えられない憧れです。

萩 /ガーシュイン。ジャズとクラシックの間(はざま)で苦しみもがきながら、他の誰も作り得なかったものを作ったと思えるから。

寺嶋/林光さん。曲も人柄も、そしてとくに作曲家としての活動のしかたに憧れていました。


Q23. 自分が演奏したことのある楽器とない楽器では、作曲する時に何か違いがありますか。

吉川/違いはあると思います。演奏したことのある楽器では、よくわかっている反面、経験の範囲内でまとめようとしてしまうかも知れません。

萩 /演奏できる楽器がピアノだけなのでピアノが特別なのか、ピアノという楽器がそもそも特別なのか?ピアノには少し特別感があるような気もしますが…。

寺嶋/オーケストラで普通に使われる楽器では違いは感じません。邦楽器や民族楽器だと、多少違いがあるように思います。


Q24. 今まで作曲したことがなく、チャンスがあれば作曲してみたい楽器はありますか。

吉川/ハープ、あるいはギターの独奏曲かな。

萩 /バンドネオン。

寺嶋/思い当たるものはありません。


Q25. 意外と知られていないけれど、作曲家に必要と思う素養を教えてください。

吉川/素養?何だろう…。自己肯定する力と、それと同じくらい自省できる力かな。

萩 /素養というのはよくわからない。資質としては、粘り強さ。忍耐力、持久力が必要だと思います。

寺嶋/演奏家に対する敬意を持てること。


Q26. 日常的に音楽を聴きますか。聞くとしたら、どんなジャンルの音楽ですか。

吉川/聴きます。多いのはオーケストラ、ジャズ、ラテンなど。

萩 /このごろはほとんど聴きません。以前はバッハとマイルス・デイビスを時々気分転換に聴いていました。

寺嶋/いまは日常的に聴くことはなくなりましたが、楽しみのために聴くのはほとんどクラシック(現代音楽も含む)とジャズです。


Q27. オペラや合唱劇などを作曲する際、楽器の編成はどうやって決めますか。

吉川/楽器の数は予算によって。テキストに対して、私が発言させることができる楽器は何かを考えます。

萩 /その作品にはどういう楽器が合うか、と考えるのですが、その前に制作上の事情がありますから、何人の演奏者にお願いして良いか、ということを主催者に伺います。人数も編成も自由だと言われても、あまり大編成に慣れてないので、管楽器からひとつ、弦楽器からひとつ選ぶ、というような感じで考えます。

寺嶋/主催者の経済的な事情が許す範囲で、曲の内容をもっとも効果的に伝えることができそうな楽器を選びます。


Q28. 自分の作曲した作品がどのように演奏(上演)されるか、気になりますか。

吉川/初演は気になりますね。再演からは、それほどでもないです。

萩 /演出の要素の入る作品は特に気になります。

寺嶋/なります。


Q29. 好きな詩人を教えてください。その理由も。

吉川/まど・みちおさん。目の前の何かを見ていたのに、ふと気がつくと、宇宙空間に連れて行かれたりしている。

萩 /まど・みちお。誰にでもわかることばで宇宙をとらえているところ。

寺嶋/フェデリコ・ガルシア=ロルカ。好きな理由はとくにありません。


Q30. 他のふたりの作曲家と最初に会ったのはどこででしたか。

吉川/萩さんとは、芸大の受験会場、もしくは入学式あたりで。寺嶋さんとは、間宮クラスのレッスンか学内演奏会だったと思います。

萩 /吉川さんとは、芸大の入試のとき。こちらから見ていただけですが。入学してからが正式な出会い。寺嶋さんとは彼が芸大の1年のとき。私はソルフェージュ科の非常勤講師でした。どこ、という質問への答えとしては、どちらも東京芸大の校舎内。

寺嶋/萩さんを初めて見たのは、1980年、こんにゃく座の「ぐるぐるまわりの歌」コンサートでした。話をしたのは、1984年「フィガロの結婚」の編曲を手伝ったときのことだったと思います。萩さんは東京藝大でソルフェージュを教えていたので、4月か5月、学校で直接渡したと思います。 吉川さんを初めて見たのは、1982年か83年、俳優座劇場での黒テントとこんにゃく座による「敗戦コンサート」で「組曲日本国憲法」が初演されたときでした。初めて話したのは、1984年11月に藝大の第6ホールで間宮門下の作品演奏会で吉川さんの曲がゲスト演奏されたときでした。


Q31. 他のふたりの作曲家の第一印象を教えてください。

吉川/会った時期は違うのですが、ふたりとも、若くてキラキラしていました。

萩 /吉川さんは、とにかく早熟な新進作曲家いう印象。タケミツさん、とかミヨシさん、とか、私にとっては遠い存在だったベテラン作曲家たちを「さん付け」で話していて、度肝を抜かれました。歳は近いですが、10年くらい先を行っているな、と思いました。 寺嶋さんは、とてもまじめな印象。礼儀正しくさわやかで、ピアノが上手で。大切に接しなくては、と思いました。

寺嶋/萩さん・・・おしとやかな人に見えました。曲は、聴いた当時、とても林光さんの曲とよく似ていると思いました。吉川さん・・おとなしい人だなと思いました。曲は、変わった響きがするなあ、と思いました。


Q32. 他のふたりの作曲家の作品で、忘れられない作品を教えてください。その理由も。

吉川/萩さん=「遺書」(円谷幸吉による)。萩さんの世界が確立された作品。寺嶋さん=「大陸・半島・島」。その発想のスケールの大きさに驚きました。

萩 /吉川和夫「神田神保町」(詩:岩田宏)。このような詩に作曲することに衝撃を受けました。寺嶋陸也「ヴァイオリンソナタ」。力強くて美しいと思いました。

寺嶋/萩さん・・男声合唱のための「渡り飛ぶ白鳥」。楽譜を読んでいると、転調のない白い響きの音楽がどこまでも続く美しさに陶然とするのですが、いい演奏で聴いたことは無く、理想的な演奏は不可能なような気もします。吉川さん・・「水に傷つけられた者」。タイトルは正確でないかもしれません。上記1984年11月に聴いた、たしか2台のヴァイオリンとヴィオラのための曲で、曲の全貌は思い出せないものの、低音を欠く弦楽器の響きの質感が忘れられません。


Q33. 2020年の東京オリンピック開催についてどう思いますか。

吉川/もはや、じっと身を潜めて、やり過ごしたいです。

萩 /浮き浮きした気持ちにはなれないなあ。

寺嶋/やめてもらいたいと強く思います。


Q34. 好きな小説家を教えてください。

吉川/宮澤賢治を別にすれば、チェーホフ、中島京子さん。

萩 /太宰治と夏目漱石を別格とすれば…、三浦しをん。

寺嶋/とくにいません。


Q35. 好きな画の題名と作者を教えてください。

吉川/「海の幸」青木繁、「印象・日の出」クロード・モネ。

萩 /ゴッホの「アルルの寝室」。

寺嶋/ベラスケス「ラス・メニーニャス」、ゴヤ「ボルドーのミルク売り娘」。


Q36. 今一番の関心事はなんですか。

吉川/「遠野物語」をちゃんと作曲できるかということ。

萩 /沖縄。

寺嶋/「遠野物語」の作曲。(これを書いている時点で、まだ完成していないので)


Q37. 今一番行ってみたい国はどこですか。その理由も。

吉川/平凡ですがヨーロッパ。わざわざ行く人があまり多くない国ばかりに行った経験があって、西洋音楽をやっているクセに、ヨーロッパに行ったことがないので。

萩 /アルゼンチン。アルゼンチンの空気に触れたい。現地でタンゴも聴きたい。イグアスの滝も見たい。

寺嶋/スペイン。すでに何度も行ったことがありますが、いつでも行ってみたいと思います。とにかく好きなのです。


Q38. あまり人に知られていない趣味や特技があったら教えてください。

吉川/(一部の人には、とてもよく知られているかも知れませんが)サッカーを観戦して騒ぐこと。

萩 /ジグゾーパズルが好き。でも今のところ自ら禁止しています。クロスワードパズルも好きです。特技は椅子で寝ること。

寺嶋/ありません。


Q39. 「音楽は○○である」。○○に何が入りますか。

吉川/栄養。音楽が足りないと、栄養不良になります。あ、でもジャンクフードは減らした方が良いね。

萩 /生活。

寺嶋/鳴り響く大気。


Q40. 2019年の予定を教えてください。

吉川/約束しているいくつかの作品を書き終えたら、大学の研究室の整理をします。来し方行く末について、真剣に考えるべき年です。

萩 /『遠野物語』でスタート。女声合唱曲をふたつ。混声合唱曲をひとつ作曲予定。2020年の『イワンのばか』のための準備と作曲。

寺嶋/2月26日に、「うたびと“風”のつどい」という合唱団のために書いた新作女声合唱曲の初演があります。3月23、24日に兵庫県立芸術文化センターにて、びわ湖ホール声楽アンサンブルの公演でオペラ「森は生きている」のオーケストラ版を、ピアノを弾きながら指揮します。びわ湖ホールでは、ほかにも9月14日に宮澤賢治の後半生を描いた自作の合唱劇「かなしみはちからに、」を上演の予定で、16日に東京公演もあります。ちなみに、12月25日には慶應義塾大学の合唱団楽友会が、その前篇にあたる、賢治の前半生を描いた合唱劇「賢治と嘉内~銀河鉄道の二人」を上演してくれます。5月19日三軒茶屋のサロン・テッセラでピアノの演奏会。9月22日合唱団エトワーユのために新作合唱曲を書き初演します。


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