オペラ『森は生きている』
新演出・オーケストラ版 特集ページ
インタビューVol.2
ミロコマチコ〈絵本作家/画家〉

国内外で活躍されている絵本作家、画家のミロコマチコさんに今回オペラ『森は生きている』のチラシのイラストを描いていただきました。なかなか聞くことのできない作品制作の過程や現在お住いの奄美大島についてお話ししていただきました。



イラスト打ち合わせ時/9月上旬・六本木
――オペラ『森は生きている』のイラストはどんなイメージで描かれたのでしょうか。
こういうものを入れたいなというのはすぐ浮かびました。たとえば昼と夜、四季と晴れと雨と、全部入っているものにしたいなと。
それをどう絵に落とし込むかというのは悩みました。

――絵の中にいろんな要素が凝縮されていて、見れば見るほどいろんなものが描かれているなと思いました。
そう、あまりひとつのものに限定されたくなかったんです。
たとえば雪景色にしちゃうと冬に引っ張られると思うので、あらゆる季節とかが混ざっているほうがこの作品には合うんじゃないかなって。雪も降ったり、雨も降ったり。
描かれているものが何なのか、見る人に想像してもらうのが良いのかなと。

――描き上げるときは一気にという感じなのでしょうか?
私はわりと描きながら考えるタイプなので、あんまり初めからラフとか色が出来上がっているわけではないです。ふだんから変更を重ねながら描いているので、ブルーと思ったけどやっぱり赤かなとか。時間がかかりましたけど楽しく描きました。

――絵本作家になりたいと思われたきっかけなどがありましたら教えてください。


インタビューはオンラインにて
15歳ぐらいでミヒャエル・エンデの「モモ」の人形劇を見にいったのがきっかけでした。そこから児童文学を読むようになって図書館で自然に絵本の本棚をのぞくようになりました。

絵本には、ものすごいぶっ飛んでいておかしな世界が沢山あって。長新太さんとか片山健さんとか。そこから一気に引き込まれたんですよね。



楽しいミロコさんの絵本
大学卒業までは人形劇をやったんですけど、やってみたら演じたりというのより、お話をつくるのが好きだったんですよね。だんだんやりたいことに気づいていって23歳ぐらいで「あ、私は絵本をつくりたいな」って思って。

――ミロコさんの絵本を読むととてもユーモアのセンスを感じます。
子どものとき笑える絵本が大好きで、田島征三さんの「やぎのしずか」とかやぎがテーブルの上でうんこするだけですごい笑っていました。父が寝る前に読み聞かせをしてくれる役だったんですけど、「地獄のそうべえ」は、とにかくゲラゲラ笑って。おもしろくて絶対寝れないみたいな。「ぼちぼちいこか」とかね。だからもしかしたら言葉の運びとか、このリズムが好きとか、そういうのが心の奥底に眠って残っているんだと思います。意識の下の下の方にね。

――子どもたちを集めたワークショップを数多くおこなっていますが、ミロコさんの活動の中でワークショップはどのような存在なのでしょうか。
私は、絵を描く技術は全く持っていないので、誰でもできるようなことをやっています。

子どものころに、下手だねって言われてしまったこととか、(自分の絵を)そうじゃないって言われてしまったことから、絵を描くことに抵抗を持ってしまったんですよね。
いっぱい寄り道できたのでよかったですけど、そのまま忘れちゃう人もいるだろうなと思って。



*ワークショップ風景
ワークショップの時は、絵を描くことって、ただ筆に絵具を付けて描くとかだけじゃないってことをやりたくて、くさいとかぬるぬるするとか、冷たいのか熱いのかとか、背中で描いてもいいし、描かなくてもいいとか、なんでもありです。

面白かったとか、面白くなかったとかあるかもしれないけど、心の底で「あのひとめちゃくちゃ汚れていたよ」とか、そういうことって忘れないと思うんですよ。
私が絵具だらけの服で出ていくとすっごいビビるんですよ。子どもが「えっこんなに汚れるの?」って親と顔を見合わせたり。汚しちゃいけないってたぶん言われることの方が多かっただろうし、汚れることにとても抵抗を持っている子もいるんですよ。でも手足は洗えば落ちるし。そういう体験を、ちょっとだけでもしてもらいたいんです。わたしみたいな変な大人もいるんだ、ということを知ってほしいという思いでやっています。



*奄美大島の海
――最後に奄美のことを少しお聞きしたいと思います。もう10月ですが、そちらはまだ暖かそうですね。
暑いですよ。まだ半そで。

――奄美に行かれたのは固有種のイラストを描くお仕事がきっかけで、引っ越されたのは1年半前くらいとお聞きしました。
そうですね。去年の6月に引っ越して、その2年前の3月くらいにはじめて仕事で訪れたんです。

――島に着いた瞬間に「好き」って感じられたとお聞きしました。何かインスピレーション的なものを感じられたのでしょうか。
本当に最初に「あぁ、好きっ。ここで絵を描きたい。」って思って、あとからどんどん確認していく感じでした。本当に好きなのかな、わたしに住めるだろうかとか。

――実際住まわれて一番よかったなって思うことは何ですか。
救われるのは、自然がすごい豊かなことですね。家の中にいて少し嫌なことがあるとちょっとやさぐれますけど、(カーテンを)パーって開けると、大きな森があって。家を出れば大きな海があって。それを目のまえにするだけで、「あーどうでもいいな」って思えたり。

――奄美大島と都市の生活の違いを教えていただけますか。
それこそ、参考で送ってもらった「森は生きている」の映像を見てて、よりあらためて思ったんですけど、東京にいるときはスーパーとかにいろんなものが年中ならんでいて、この料理作りたいって思ったときに、その食材を買いに行けばあったんですけど。こっちでは、その料理つくりたいと思っても、その季節の物じゃないとないんですよ。

でもそれってあたりまえだなってやっと気づいたって感じです。
そしたら、季節の物から、売っているものから、畑で作ったものから何を作ろうかと考えたりするので。その方が本当の姿だなって思いました。なんでも手に入るところにいすぎたんだなっていうのを思いました。「マツユキ草は冬にはない!※」ってことと同じですよ。

(※オペラ『森は生きている』の舞台は寒さ厳しい真冬のロシア。おさない女王が新年を迎えるパーティに春にしか咲かないマツユキ草がほしいと言い出し、国中が大さわぎとなります。)



*奄美大島のお祭り「種下ろし」
それから島の人たちは自然を見ていろんなことを決めている、っていうのもすごく印象的でした。台風が何月頃に来るとか、私も頭では分かってるんですけど。もたもた畑とかやってると、ぜんぶ吹っ飛んでしまったりとか。

島の人たちは、台風が来る前に収穫を終えて、その間は何も耕さない、何も植えない。今は「種下ろし」という季節で、お祭りもあります。また田を耕して、種を植えてっていう風に、自然に合わせて生活をしている。今それを見ながら勉強しています。自然のことを知らないと生きていけないぞって実感しています。

――今回、「森は生きている」をつくるにあたって「森の奥の気配とか、動物や精霊たちの気配、そういったものが見え隠れする、そういう舞台をつくれるとおもしろいよね」っていうことを話しているのですが、観る人の想像力が膨らむような舞台ができたらなと思っています。
本当の森もすごい気配を感じます。奄美の森は「1メートル先に何かが潜んでいるかも」っていつも思います。そういう世界をぜひつくってください。観に行きたいと思います。

質問ひとつひとつに対して、ミロコさんはとても丁寧に貴重なエピソードを惜しみなくお話してくださいました。まっすぐで飾らない言葉にとても心を打たれました。ミロコさんの作品を生で鑑賞できる機会が各地でありますので、ぜひその迫力や色彩の鮮やかさを感じてみて下さい!

*印の付いた写真はミロコさんからの提供。

(聞き手)湯本真紀/こんにゃく座制作
10月下旬 オンラインにて


●ミロコマチコ(画家/絵本作家)
1981年、大阪府生まれ。2012年の絵本デビュー作『オオカミがとぶひ』で第18回日本絵本賞大賞を受賞。以降も『てつぞうはね』で第45回講談社文化賞、「ぼくのふとんはうみでできている」で第63回小学館児童出版文化賞など、受賞多数。
ミロコマチコweb site

全国美術館巡回展「いきものたちはわたしのかがみ」

〈今後の開催予定〉
◆愛知会場
2021年4月24日(土)~6月6日(日)(予定)刈谷市美術館
◆高知会場
2021年7月~9月(予定)高知県美術館
◆神戸会場
2021年10月~12月(予定)神戸ゆかりの美術館
◆横須賀会場
(会期未定)横須賀美術館


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