◆オペラ『想稿・銀河鉄道の夜』出演者インタビュー その5
2016-12-14

熊谷みさと
熊谷みさと(くまがい・みさと)
2009年入座
東京都出身
東京学芸大学卒業

オペラ『想稿・銀河鉄道の夜
生徒役 ほか

■こんにゃく座に入ったきっかけ

熊谷/こんにゃく座を知ったのは、東京学芸大学で「音楽劇を作ろう!」という内容の加藤富美子先生の授業の時に、特別講師として来ていた大石さん(大石哲史)と出会ったのが最初でした。『あまんじゃくとうりこひめ』のじっさばっさのシーンをやるといって口伝えしてくれていた途中で、オペラ『森は生きている』の中の、娘と四月の精の「まつゆき草の歌」を何の説明もなくいきなり歌い始めたので、面白い人だなぁと思いました。その授業の中でちょっとした発表会もあったりして、自分自身は全然まともに歌ったり演技したりできなかったけれど、すごく楽しかった記憶があります。その後その受講者の中で、もう少しこの音楽劇を続けてみようという声があり、何人かで自主ゼミを立ち上げて『ロはロボットのロ』をやりました。

―こんにゃく座の作品はそのころ観たのかな?

熊谷/公演を見たのは、姉に誘われて『フィガロの結婚-モーツァルト・エキゾチカ-』(2006年)を一緒に観に行ったのが最初です。習っていた声楽の歌とあまりに違って、その時は言葉が良く伝わるということよりも、とにかく声の使い方に衝撃を受けました。その後も誘われるままにこんにゃく座の公演を観てはいたのですが、はっきり団体として自分から興味を持って観たのは、自主ゼミを立ち上げた後にみんなで行った『クラブ・マクベス』(2007年)でした。その時に、かっこいい舞台だなぁ!と魅了されて、その後に『まげもんーキラリ☆ふじみの陣』(2007年富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ主催・市民のキラリ☆かげき団との合同公演)を観に行った時に、もうすごい大笑いしたり、大泣きしたり、こういう仕事は大変素敵だなぁと心奪われてしまいました。

―仕事としてのこんにゃく座を意識したのはその時だったんですね。

熊谷/教員になろうと思って大学に入って、子どもは好きだし関わる仕事をしたいと思っていたのだけれど、教育実習に行った時にクラスの30人くらいの子どもたちをいっぺんに見るのは自分にはなかなか難しいかもしれないと思ってしまって、このままいけば自分は先生になるんだろうけど、本当にこれでいいのか…と悩んだりして、そんな時にこんにゃく座の舞台に出会って、自分は本当はこれが好きなのではないか、これがやりたいのではないかと思い始めていました。

―その後すぐにこんにゃく座へではなかったのですね。

熊谷/卒業の時には募集がなくて、かといって自ら門をたたく勇気はなく、こんにゃく座に入りたいという思いもなかなか言えず、でもこのまま教師になるわけにも…と思い悩み、音楽療法勉強したり、リトミック学んだり、ミュージカルコースを覗いたり、ちょっとフラフラとしていました。その時に声楽も習っていたんだけど、いわゆるクラシックの声楽というやつで、先生の言うことはわからなくもないんだけどなんだかちっともしっくりこないし、途中でもうすごくつらくなってしまい、意を決して大石さんに連絡して個人レッスンをお願いしました。そうしたら今習っている歌を歌ってみてと言われ、イタリア歌曲を歌ったんですけど、細かい助詞とかの意味を聞かれ何も答えられなかったら、内容をわからず歌ってはいけない!とすごく怒られてしまって(笑)、でも大石さんのレッスンは、もちろん難しいこともたくさんあるんだけど、言っていることはよくわかるし、自分の声を自分で認められる感じがして救われました。そうこうしている中、歌役者募集があって入座となりました。

―子どもの時から歌ったり、人前に出たりすることは好きだったの?

熊谷/そうですね、小さい時から歌ったりするのは好きで、母親がピアノやエレクトーンで「みんなのうた」の伴奏を弾いてくれたりしてよく家で歌っていました。小学校の時は、学芸会とかすごくはりきっていたし、運動会でみんなの前で楽器が吹けるとかただ見た目がかっこいいって理由でブラスバンドクラブに入ったりして(笑)。音楽と関わる仕事がしたいと最初に思ったのは中学生の頃。中学校の音楽の先生が、すごく歌が上手で、人間的にも大好きで、こんな人になりたいってあこがれていました。そこから音楽の先生になりたいって思って。合唱コンクールとかもすごい熱中して、指揮者に立候補して家の洗面所の鏡の前を占領してずっと練習して、それで2年連続最優秀指揮者に選ばれたりして調子に乗って(笑)、音楽っていいなぁと思っていました。

■宮澤賢治作品との出会い

―子どもの時に宮澤賢治の本は読んだりしていた?

熊谷/宮澤賢治ということは意識していなかったけれど、母親が読み聞かせをしてくれたのが最初の出会いだったかと思います。賢治に限らずいろんなジャンルの本を読んでくれて。今思うとおかしくて、字しかなくて分厚くて重い宮沢賢治全集とかをわざわざ寝転がった状態で持ち上げて読んでくれて、「注文の多い料理店」も、今から寝るっていうのにすごく怖く読むし(笑)、いろいろなものをたくさん読んでくれたのですが、「永訣の朝」なんかも他の物語と同じレベルで読み聞かせられたので、私の中ではピーターラビットとかの絵本と「永訣の朝」が同じレベルの記憶にあるんです(笑)

―面白い!素敵なお母さんだね。

熊谷/宮澤賢治の作品とちゃんと意識して読んだり見たりしたのは、もしかしたらますむらひろしの漫画が最初だったかと思います。
こんにゃく座のオペラでは、入座してすぐ衣装などの手伝いをしながら『よだかの星』で感動して号泣したり、最初に出演したのが『セロ弾きのゴーシュ』の旅公演での子たぬき役だったので思い入れも強いです。でもその頃は宮澤賢治作品っていうカテゴリーとしてはそんなに意識していなくって、つながっていなくって、それぞれの作風があり、それぞれの作品の世界として受け取っていたから、あんまり賢治オペラというくくりでは感じていませんでしたね。

■オペラ『想稿・銀河鉄道の夜』について

―お母さんの読み聞かせの中に「銀河鉄道の夜」もはいっていましたか?

熊谷/あったかとは思うのですが、お話が長かったので読み聞かせの記憶は薄いです。漫画や映画で見た時の印象は、悲しいお話というイメージが強かったんですけど、2010年初演を見た時は、ゲラゲラと笑えるシーンもあったりして、なんて面白いんだ!と思いました。でもやっぱり泣ける部分もあって。
それから「想稿・銀河鉄道の夜」の他の団体のお芝居もいくつか観たのですが、こんにゃく座のがやっぱり好きだなと思って…。それは、ともかく音楽が良くって、キャスティングがどの役もピッタリだとすごく思ったからです。
初演の時は、衣装部だったんですけど、本番では演出部の仕事をやることになり、舞台の上のギャラリーからいつも舞台を観ていて、床面に移る映像も上からだと特によく見えたし特等席でした。裏方で関われたこともとっても幸せに感じた、こんにゃく座の作品の中でも特に好きな作品です。
それから、カムパネルラの最後の歌は本当に素晴らしいな、と思います。
レッスンの年末の発表会でこの作品の一部をやった時に歌ったのですが、うまく歌えないけど何回歌ってもやっぱり好きだなと思いました。講評で萩さんから「ちゃみ(熊谷みさと)は本質的にジョバンニそのものだから」と言われ、自分でもそのとおりだなあと思うのですが、カムパネルラが自分から銀河鉄道に乗って去る心情を知りたいと思い、その発表会の時は、カムパネルラをやりたい!て言ったんです。ジョバンニもやりたいし、青年もザネリも、鳥捕りも…全部やりたい!って思ったんですけどね(笑)登場人物がみんな魅力的で。でもひとつしかできないから、カムパネルラ!って。ジョバンニの気持ちはよくわかるんです。だけど、カムパネルラは謎なところがあるから。

―そうだね、生と死のあいだにいるのがカムパネルラだもんね。

熊谷/どうしてジョバンニと一緒にいようと思ったのか、とか、どこから自分の事をわかっていたのか、やっぱり一緒に行けないと思うこととか、カムパネルラのことを知りたいなと思っていろいろと想像するんだけど、やっぱり不思議なまま。

―私もやるならカムパネルラだな(笑)生死のはざまにいるのはどういう心情なのかなぁって思う、歌ったらもしかしたら、もう少しわかるんじゃないかって思わせるような作りになっているよね。ああいう歌を歌わせるって…見事だよね。

熊谷/そう、そうなんです!こういうふうに思っていたのかなと想像しながら歌うと感情がぶわーっと溢れてきたり、歌うたびに違う気持ちになったりもするし、本当に不思議です。歌ってもなかなかわからないけど、歌わないとわからないのかもしれないし。作曲した萩さんは本当にすごい!と思います。

―今回は出演ということでどうでしょう。

熊谷/キャストが少し変わるけれど、そのキャラクターもみんなやっぱりピッタリ!だったと思ってもらえたらなあ、と思います。活版所のシーンとか、星まつりのところで歌われる「♪ケンタウルス露を降らせ…」の合唱とか、すごく好きだったので、ちゃんと向き合って歌うのはとても楽しみです。初演とどのように変わるのかなとドキドキするし、大好きな作品なだけに、初演以上にしたいという思いと、できるかなというプレッシャーもあります。でも音楽がとにかく素敵だし、ひいき目なしで見ても本当に楽しい作品だと思うから、美しいところ、切ないところ、わくわくするところ、いろんなことをそっくり楽しんでもらえるといいなぁと思います。

熊谷みさと
2013年 オペラ『銀のロバ』ココ役

(聞き手・忠地あずみ/こんにゃく座制作)
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