◆子どもたち参加型オペラ『どんぐりと山猫』と林からきこえてきた歌(作曲・萩京子)
2016-06-29


オペラ『どんぐりと山猫』と林からきこえてきた歌 初演の舞台写真

─2002年、こんにゃく座初の参加型作品が誕生しました。それも子どもたちにオペラに出演してもらおうっていう企画。

/そうそう。参加型でやってみようという最初からの提案だった。それで、子どもたち参加バージョンと、参加しないバージョンと、両方公演が可能という作り方をしてみた。

─参加してもらう子どもたちの募集は、年齢は小学3年生から中学3年生までとして、定員20名くらいで募集したんだけど、たくさん応募が来て。出演したのは結果的に27人。週末に6回、大石さん指導のワークショップをして、劇場でのリハーサルもきちんとやって。舞台稽古中に、がんばりすぎて鼻血出して倒れちゃう子もいるくらいみんな真剣に取り組んでた!

/こういった(参加型)試みの公演が初めてだったから、パッとこういう公演をやってみよう、と思いついたものの、実現するまではひとつひとつ手探り状態だったね。募集をかける時も、初めて子どもたちと対面する時も、ドキドキだった。
参加した子どもの親たちが更に熱心だったということもあるけれど、この公演が縁で、参加した子たちと親たちとの関係が今でも続いていて、あの時小学生だった子がおとなになって、中にはもう子どもを産んだ子もいて…。だからすごいな、と思う。あの時に一生懸命やったことは本当によかったなと思うよね。

─山猫役で出演した岡原さん(岡原真弓)の存在が大きかったよね。

※「親子どんの会」という会をつくり、参加した子どもたちと親たちと一緒に、花見をしたり、飲み会をしたり、キャンプをしたり、コンサートをひらいたり、いまでも折に触れて集まっては楽しいことをしている。

─『どんぐりと山猫』は、東京公演のあとに全国で旅公演もしたんだけど、子ども劇場では参加型公演が多くて、事前ワークショップに歌役者とピアニストで二回行っていたかな。
ゆず(小林ゆず子)は、大垣おやこ劇場(岐阜県)の会員だった時、『どんぐり~』でどんぐり役として出演して、その後2013年に歌役者として入座したんだよね。

/そうそう、旅でもいろいろな出会いがあったね。
『どんぐりと山猫』ははじめ、合唱団じゃがいものために合唱劇として作曲したんだけど、どんぐりたちは6声あった。6グループということ。最初から子ども参加型のオペラと想定して書いていたら、もう少し歌いやすく作曲したかもしれない。子どもたちが歌うどんぐりたちのパートが難しいんだよね。

─うん、最初そう思った!

/こんにゃく座初演に集まった子どもたちは大健闘して6つのグループで違う音をちゃんと歌って、違う演技を重ねてすごくおもしろくできた。でも旅公演に行くときは、二回のワークショップでこの6つのパートのどんぐりたちを本番に出演させるのは難しいから、旅公演のために3つのグループに編曲したのでした。

─歌のステージとオペラという組み合わせでの本公演というのも珍しいのかな。歌のステージもお芝居仕立てというかね、台本があって。

/「オペラ『どんぐりと山猫』と林からきこえてきた歌」というのが公演タイトルで、「林からきこえてきた歌」の部分が歌のステージを表していて。タイトルとは逆で歌のステージから始まって、オペラは後なんだけど、歌のステージは、独立した歌のステージではなくて、後半のオペラにつながっていくような構成にした。そういうものをつくりたい、というのも長年の夢だった。

・・・

─こんにゃく座で公演した賢治のものというのはまだあって、コミックオペレット『饑餓陣営』、うたものがたり『よだかの星』、それからソングや合唱曲。
『よだかの星』は、谷篤さん、潤子さんのお二人に委嘱されて萩さんが作曲したんだよね。

/そう。二人のための作品をということで委嘱されて、内容は任されていたのね。谷夫妻のためには三作品つくっているんだけど、それはなぜか全部賢治のもの。最初が二重唱としての「風がおもてで呼んでゐる」、次が「よだかの星」、その次は「薤露青(かいろせい)」。
谷夫妻はあまり男と女ということを感じさせるキャラクターではないので、この二人の雰囲気をいかして、二人が歌える題材というのを悩みながら探した時に、賢治がいいな、と思ったわけ。賢治のことばというのは、なんというか恋人とか夫婦とか、そういう男と女の関係ではなく、でも男と女が二人で歌ったら素敵になるテキストだなと思って、「風がおもてで~」を作った。賢治と妹のトシの関係をイメージできた、とも言えるかな。
それでそれがうまくいったなと思ったから、次にやるときに、歌で物語ができるものということで賢治の作品の中から、「よだか~」という題材に行き当たった。よだかがいて、もう一人がよだか以外の部分をやるということでできたらいいな、と、これは前から思っていたのね。二人で、オペラとして演じなくても物語が伝わるものとして選んだ。その後、いつかこんにゃく座でもやりたいな、という思いはずっと持っていたんだよね。

─こんにゃく座でレパートリーとして浮上したのは、大掛かりな装置なんかがなくて、比較的フレキシブルに旅公演ができる作品の要望があって、その時に『よだかの星』はどうだろう、ということになった。『よだか~』じたいは30分ほどだから、これも前半に歌のステージを組み合わせて、全部で1時間くらいの上演時間で。


うたものがたり『よだかの星』こんにゃく座初演の舞台写真

/こんにゃく座のレパートリーにするときに4人バージョンということで定着させた。そして旅公演を重ねるなかで、どんどん音楽的にもゴージャスになっていった(笑)。音楽が増えていったの。

─舞台装置もすごくシンプルにつくって、ちいさな保育園の園舎でもやったり。いまは少しお休みちゅうだけど、またすぐにいつでもやれるっていう感じだね。

/そうそう。いつでもやれる作品として残っていくといいな、と思っている。
実は、山梨の合唱団から、ピアノだけじゃなくやりたいという希望があった時に、サックスを加えたバージョンをつくったのね。これね、いつかやりたいんだよねー。

・・・

─そして、『饑餓陣営』です。

/『饑餓陣営』というのは、黒テントで「オペラの教室」ていうのを数年間やった時代があって、光さんが校長先生だったのね。その一年目の終了公演に、光さんが書き下ろしちゃったわけ。それを観に行ったら、おもしろくって! なつかしの都立家政にあった黒テントの作業場でした。
こんにゃく座では、1990年に「こんにゃく座inジァン・ジァン 真夏の夜の饑餓陣営」という公演で、当時やっていたこんにゃく座研修所の生徒たちも巻き込んでやった。これは、ジァン・ジァンでいろいろやりたいっていう企画の延長線だったんだと思う。『饑餓陣営』は短いので、ソングや合唱を構成して。
8月公演だったっていうこともあって、舞台を広島の小学校、出演者は小学校の子どもたちという設定にして。〈序〉から始まって、〈第一場〉八月二日、〈第二場〉八月三日となっていって、〈第五場〉でその小学生たちが八月六日を迎えるっていう構成。
この『饑餓陣営』のおもしろさっていうのはなかなか忘れられないんだけど、ひとつの作品でございってドンとやるんじゃなくって、やっぱりなにかしらしかけや、その時その時代や、状況のリアリティが必要なところがあって、それがある中で、この作品の良さとか、観客との関係が出てくる。作品としての完成度を目指して作り込んでいくというものとはちょっと違う感じがある。
もともと賢治が自分の学校の生徒たちに上演させるために書いた戯曲だから、なんかそういう周辺のものがあってこそ、いきてくる作品だと思う。

・・・

─ソングについてです。

/光さんは、賢治の詩を作曲するというのをだいぶ前からぽつぽつとやっていたのかな。ライフワークだったかも。「小岩井農場」などの断片か、「歩行について」に終結していって。音楽的なイメージの切れ切れがだんだん形にまとまっていく、光さんが賢治の詩に取り組むひとつの流れがあって。私は谷夫妻のために、「風がおもてで呼んでゐる」の二重唱を書いたのが最初。初めに5曲書いて、あとでふたつ足して7曲になった。
光さんは賢治の思考の深みみたいなものを、オペラで展開するのとは違う角度で賢治に切り込んでいくような感じでソングを作っていて、私は、どちらかというと賢治の暖かみとか、ひとりじゃないんだ、自分と、例えば妹のトシとか、他者との接点やつながり、この世とあの世の接点とかっていうようなものに触れられるようなものを選ぶ感じがある。
だから、光さんが賢治を書く方向性と、私が選んでいる詩の方向性は少し違っているよね。「林と思想」はふたりとも書いてますが(笑)。


2009年5月に開催したオペラシアターこんにゃく座ソングコンサート
「百花連唱(うたのくさぐさ)歌います」の際の集合写真

(聞き手・田上ナナ子/こんにゃく座制作)

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オペラ『どんぐりと山猫』は、たくさんの旅公演をおこないました。
いまでも旅公演先で、「以前、子どもがどんぐりに出ました」とか
「私、どんぐり役で一緒にやりました!」など
声をかけていただくことが多い作品です。

ここまで駆け足でしたが、
これまでのこんにゃく座の賢治作品について振り返りました。
次回以降、いよいよ9月公演オペラ『グスコーブドリの伝記』に向けて、
作曲の寺嶋陸也さんについて、
そして、出演者インタビューがスタートです。


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