◆2 ピアニスト入川舜 演奏動画&インタビュー

入川舜さんには、昨年秋からこんにゃく座オペラ塾でピアノを弾いてもらい、今年3月のオペラ塾修了公演オペラ『女たちの平和』にピアニストとして出演していただきました。 こんにゃく座のオペラ公演には初めて出演していただきます入川さんの演奏動画と、萩京子によるインタビューです。

入川舜《演奏動画》
「この虫だけは」 ~林光ピアノ曲集「もどってきた日付」より~



入川舜インタビュー 聞き手:萩京子


/こんにゃく座に関わるようになる前に見たこんにゃく座の作品はなんでしたか。

入川/なんだったのかっていうのを、実はちゃんと覚えていないんですよ。地元が静岡なんですけど、おやこ劇場の会員だったので、そこで何か見ているとは思うんですよね。『森は生きている』とか。

/何かしらは見たはずだけど、はっきりと覚えていないという感じですかね。
何歳から何歳まで会員だったんですか。

入川/小学生のころはずっと会員だったと思います。

/おやこ劇場では、年に何本も舞台を見ると思うんだけど、“こんにゃく座”というのは印象にありましたか。

入川/なんかこう、おやこ劇場では音楽のものを見たという印象があまりなくって、劇、お芝居を見に行っているっていう印象だったんですね。自分のなかで、音楽とかオペラというジャンルについてまだあまり知らなかったということもあって。音楽っていうとピアノの演奏会とか…

/純音楽(笑)。


入川/そうですね、純音楽ですかね。音楽は、おやこ劇場ではなくって別のところで聴くものっていう感じだったんですよね。それで、こんにゃく座の何を見たかっていうのが、思い出せない…。

/おとなになってからも、あんまり見るチャンスなかったって感じでしたか。

入川/おとなになってから、そうですね、東京に出てきてから、行っていなかったですね。

/そうだったんですか。
では、ぐっとさかのぼって、ピアノとの出会いは。

入川/ピアノとの出会いは、母親がピアノの教師だったので、母から最初手ほどきを受けました。

/素直にやったほうですか。

入川/いや、素直にやったとはぜんぜん言えませんね(笑)。

/でも、逃げ出さなかった。

入川/そう。なんかこう、ある程度のものはけっこうすぐ弾けるようにはなるんですよね。子どもにしてはいろいろ弾ける、というような感じだったんですけど、でも、さらに上を目指すってことになるともっと大変な練習とかしなければいけないってところで、壁に。壁にっていうか、なんかいやになってしまって、一度やめちゃったんです。

/それは、何歳の時に。

入川/小2だったかな。

/小2。早いねぇ(笑)。小学校2年で、もう壁に。
それはもうお母さんではなくって別の先生についていた時?

入川/いや、母の時代ですね。それで小学校4年の時に、ちょっと外の人に習ってみないって言われて、それで行った先生がジャズだったんですよ。


/へー! 2年生から2年間、ピアノはまったくやめてたの。

入川/やめてたと思います。やってなかったんじゃないかなぁと。

/それで小4の時に、ジャズ! 知らなかった!
それはどういうふうにやるの。譜面でやるの、それとも耳からコピーとか。

入川/その先生はアメリカ人の先生で、バークリー音楽大学で学んだ方だったんですけど、コードとかちゃんと最初からやる感じで、コピーとかじゃなくて、理論を結構ちゃんとさせるっていう感じだったんです。
でも、子どものときにデミニッシュとか、メジャーセブンスとか、そういうコードとかを記号で覚えるっていうのは、やっぱりよくわからなかったですね。
一年くらいはやっていたんですけど、その後クラシックの先生に今度は習うことになって。その先生は完全にクラシックの先生だったので、それでまぁクラシックの方向にしだいに行くことになりましたね。
でも、ジャズは今でも好きです。こんにゃく座のソングなんかにもそういうのいっぱいあるんで、そういうのやっている時はやっぱり楽しいですね。

/クラシックの先生について、音楽大学に行こうかなって方向になってきたのですね。

入川/そうですね。でも音大にとなったのは、本当に高校入ってからくらいですね。

/寺嶋陸也さんとの出会いっていうのは、どのようにしてあったの。

入川/寺嶋先生には中学校の三年間習いました。そのきっかけは、当時、静岡音楽館AOIの芸術監督を作曲家の間宮芳生さんがされていて、その関係で、弟子の寺嶋先生をご紹介いただいたんです。

/それはピアノの先生として紹介されたの。

入川/そうです。だんだん大学のこととかが見えてくるにつれて、地元を出て外で、東京にレッスンに行ってみたら、と親が考えていたみたいなんですね。

/普通は芸大を目指すんだったら、芸大のピアノの先生の系列の先生に習おうとするけど、寺嶋陸也さんというのは、ピアニストはピアニストだけど、作曲家だし、音大に入っていくルートとしては、ちょっと異色ではないですか。でも良かったんだね。その出会いがその後の何かを決めたところがあるのかな。

入川/そうですね。やっぱりピアノの先生って、感覚的な教え方をされる人が多いんだと思うんですね。でも寺嶋先生だと、作曲家というような曲の見方をされますよね。

/曲の分析?

入川/そうですね。初めて寺嶋先生のレッスンにいった時、バッハの平均律と、シェーンベルクの6つの小品をやったんです。

/自分で持って行ったのではなくって。

入川/そう、それを持ってきなさいって、言われたんですね。
バッハの平均律のフーガとかを、寺嶋先生が解説しながら進めてくれるのが、かっこいい!って思ったんですよね。こういうふうに説明できるんだ、て。これまではそういうふうな教えをうけていなかったっていうか、そういうふうに音楽について説明されたことなかったので、すごい新鮮だったんですよね。

/それが、中学生の頃か。
それですーっと芸大に入れたわけ(笑)? 寺嶋さんのレッスンを受けて。

入川/寺嶋先生の先生が辛島(輝治)先生で、辛島先生のところに、高校2年くらいから通いました。

/そうでしたか。
自分で初めに好きになった音楽ってなんですか。

入川/ちいさい頃のいろいろなエピソードを親から聞くんですよ。自分では覚えていないんですけど、そういうのはいっぱいあって。ベートーベンの運命を聴きながら、指揮してたとか(笑)。ベートーベンのワルトシュタインとか好きだったみたいです、そういう調子のいい曲が。母の生徒さんが練習していたのを聞いていて、その生徒さんのレッスンで「この音違ってたね」とかいうような、いやな子どもだったんですよ(笑)。
あとは、フランス音楽。ラヴェルのクープランの墓のプレリュードとか、素敵と思っていましたね。フランスのおしゃれな響きっていうか。とにかく、耳で聴くのがすごい好きだったんですね。

/フランス音楽が好きで、それでフランスに留学したいって思ったというのもあるわけ。

入川/いや、そういうわけでもないんですよね。フランスに行きたいって思ったのは、大学院くらいからですね。

/どこかへ留学したいっていうのは思っていたの。

入川/あんまり思っていなかったです。でも、いろいろな人との出会いがあって。行くことにしました。

/フランス語はやってたの。

入川/フランス語は大学院の一年くらいからです。大学に入ったときは完全にドイツ語とかだったんですよね。ドイツ音楽ばっかりやってたし。
あ、あと現代音楽も好きです。


/珍しいよね、芸大生ではね。

入川/やっぱり寺嶋先生に習ってたっていうのもあるんじゃないかと思いますね。
あとはやっぱり、育った環境がそういう音楽が多かったですね。家にCDがいっぱいあって。そういうのを聴くのが大好きだったんですね。プロコフィエフとか、バルトークとか、そのあたり。ちょっとリズミックじゃないですか。ストラヴィンスキーとか聴くのが好きでしたね。そういうの(現代音楽)が自分の中で、変な音楽という感じはまったくなかったですね。昔から、子どもの頃から、バルトークのミクロコスモスとかやってたし。だから現代音楽は自分のなかでは隔たりはないんですよね。

/それはよい環境だったんですね。
では、話はぐっと変わって、クラブ活動はなにかしていましたか。

入川/クラブ活動は、生物部にいました。

/生物部。おもしろいことが出てきました。どういったものが好きだったんですか。

入川/なんかね、植物に、音楽を聞かせると、その成長がどうなるかっていうようなことをやってましたね。いや、でもほとんど帰宅部みたいなもんだったんですよ。あんまりがっつりやるっていうような部活じゃなかったんです。

/負担の少ない部活。

入川/そうそう。部活っていうとね、やっぱり体育会系のものも多いじゃないですか。すごく時間を拘束される。それで、吹奏楽部っていうのももちろんあったんですよ。吹奏楽部に入るべきだったのかもしれないけど、休日とか無くなるのが怖かったんですよね。そういうのがちょっと嫌だったんですよ。でも、いまになって思うと、吹奏楽部とかでの、連帯というか、組織で動くっていうようなところが、自分には欠けているなぁって思うんです。

/ピアノをやっている人はそういう経験が少ない人が多いよね。ひとりで黙々と練習しなきゃいけない楽器だからね。

入川/でもなんか、そういうところでみんなで一緒に何かをやるっていうところがやっぱり大切だと、こんにゃく座の人たちをみていても、思います。

/今回、光さんのピアノ曲集、「もどってきた日付」の12曲のなかから選んで弾いてくださいって言ったら、「この虫だけは」を選ばれましたが、その理由は。

入川/この曲を唯一知っていた。

/そうか。あの12曲のなかであとの11曲はあまりなじみが少なかったんだね。

入川/座員のレッスンの時にピアノ弾いていて、そこでいろんなソングを弾いたんですけど、座員が選んだ中になかったと思います。

/「もどってきた日付」のなかの曲は、すっごくソングの定番っていう感じなんだけどね、この頃座員がレッスンで選ぶ曲っていうのはもうちょっとひねりのあるというか、最近の曲だったりね、もうちょっと複雑な曲が多いのかもしれないですね。
それではまた話かわって、スポーツではなにが好きですか。

入川/スポーツはわりとなんでも好きなんですけど。なにぶん、ひとりでやっているもんですからね(笑)、ひとりでできるものが好きなのかな。ジョギングとかね、自転車とか。

/見るのは? 野球とかサッカーとかラグビーとか。

入川/サッカーは好きですね。弟がサッカー部だったんですよ、それで吹奏楽部で、いまオーケストラにいるんです。いまになって、弟がこれまでやってきたことを見習えばよかったなぁと思ったりします。

/いくつ違うの。

入川/ふたつ違いなんですけど。ぼくは本当にずっとひとりでやるような感じで(笑)。
弟はいま札幌交響楽団のティンパニー奏者なんです。だから、こんにゃく座で打楽器が必要なことがあったら(笑)。

/打楽器はしょっちゅう必要ですよ! でも、札幌じゃぁちょっと大変だ。


こんにゃく座会議室にて



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