◆4 オペラ『おじいちゃんの口笛』出演者トーク 大石哲史&梅村博美
左)オペラシアターこんにゃく座 歌役者 大石哲史(おおいし・さとし)
1981年入座。京都府出身、京都市立芸術大学卒業。
1981年入座。京都府出身、京都市立芸術大学卒業。
右)オペラシアターこんにゃく座 歌役者 梅村博美(うめむら・ひろみ)
1985年入座。長野県松本市出身、尚美学園卒業。
1985年入座。長野県松本市出身、尚美学園卒業。
初演のトルチナさんとホジェラ巡査
─先日、オペラ『ふしぎなたまご』から、トルチナ役のうるおさん(野うるお)とホジェラ巡査役の由季(高岡由季)のインタビューをしたんだけど、大石さんと梅さん、ふたりは、オペラ『ふしぎなたまご』初演時のトルチナとホジェラ巡査なんだよね。だからちょびっと、『たまご』の初演の話も聞きたいんだけど。
梅村/全然覚えてない! ほかにもいくつか作品を公演した時じゃない(※【注文の多い歌劇場】と題し、オペラ四作品とコンサートを公演した)。たしか、小茂根のサイスタジオで稽古したよね。
大石/スタジオの二階と一階でわかれて稽古したんだっけ。演出の元さん(山元清多さん)が、上に行ったり下に行ったり移動しながら演出してくれた時だね。 光さんもこの作品は、作曲はわりと早かった、そんなに時間かかってないはず。オペラを四作品もやる公演ということで「今回の企画は大変だから」って、最初から言ってあったはず。わりと、さらっと書いてきた印象だね。
それまでの作品とは違って、自由に書いている。途中で章のタイトルを出演者が言ったり、ちょっとブレヒト的な作りをしていて、音楽がドラマとして成立するっていうことを避けつつ進行するっていう作曲の仕方で。
最初は、「なんだこれは?」ていう感じだった。それが「おもしろい」と思もうにはちょっと時間がかかったよ。
梅村/ちょっと、とっつきにくかったよね(笑)
大石/そうだね。
梅村/歌いにくいの。すごく難しいから。
大石/四作品もやって忙しかったけど、でも楽しかったな。音楽にとまどいながらも、その変さを楽しんだ記憶があって。トルチナは歌がちょっとすっとぼけてて、オペラオペラしてなくって、やるほうとして僕はすごくやりやすかったし、楽しんでやれた作品っていう記憶があるな。
今回の『ふしぎなたまご』という作品について
─今回は白神ももこさんの振付っていうのがかなり大きな要素としてあると思うんだけど、今回稽古を見ていて、どう感じてますか。
梅村/おもしろいよね。初演の時はとても特徴的なダンボール衣裳っていうのがあったんだけど、今回は肉体を使ってどういうふうにできるのかなって思っていたけど、ああ、なるほどねっていう印象かな。しかも、歌われる言葉のとおり、その言葉を使いながら動きを作っていて、それがものすごく飛んでいるっていうのがおもしろいなって思う。
大石/いま(稽古場)よりも、もっと動きをハードにやってほしいし、派手にやってほしいなと思う。一般的にテンションって、スピードもそうだけど、作った時点からだいたい落ちていくから。もっと過剰にしていかないと、停滞していくものだからね。
本題、オペラ『おじいちゃんの口笛』について
─このオペラをこんにゃく座で上演するかどうかを考えるため、2014年に座内で試演会みたいなことをしたよね。オペラ・リーディングだとか勝手によんでたけど、動きはなしで、4人の歌役者で歌ってみて、座内発表会みたいな。大石さん、岡原さん(岡原真弓)、美佐子さん(青木美佐子)と、さとみ(田中さとみ)だったかな。
大石/あの時は、音取りは本当にざっくりやって。たくさん音を間違えたなあ。それもあって、どういう音楽かチンプンカンプンだった。それが今回、丁寧にやってみると、音楽がすごくみずみずしく変わってきたんです(笑)。
基本的に綺麗な音楽でしょ。でもピアノの音を細かく聞いているとすごくひっかかる音が入っていたりするわけ。だんだんそれに慣れてくると、その味わいみたいなものがじわじわとわかってきたっていう感じがして、音楽が好きになってきた。
梅村/わたしは試演会の時に聞いていて、なんか、淡泊な感じがして、あんまり特徴がない感じがしたの。でも音取りしていると、結構歌いにくいわけ。いろんなところに、“あまり”があるの、間が入るわけ。その役をやる自分としては、じゃあこの部分をどうやって過ごそうか、どういうふうに使わなきゃいけないかなっていう風に考えるところがいっぱいあって。そういうところが自分の中でくっきりしてくると、なんかできるかなって感じがしてきた。
トーラのキャラクターは悩ましかった。稽古場ではいろんなやり方で、こうやってみようか、ああやってみようかって思ってやってみるんだけど、それでまた改めて楽譜を見てみると、トーラさんって、伸ばす音符があんまりないんだよね、最後のほうのシーンくらいで。あ、そうか、おばあちゃんの歌い方みたいなのを、林さんがもう楽譜に書いてるんだなって。それを発見して、嬉しかった。作曲で演出しているんだなぁって思って。
老人を歌うということ
─老人を歌うっていうのは難しいんじゃないかなって思いながら見ているんだけど、そこらへんってどうなんですか。
梅村/わたしから言うと、ソプラノでおばあちゃんっていうのはありえないよね、普通のオペラでは(笑)。でも、こんにゃく座はそれがありえるわけで。
どうしても女声の場合はチェンジがあるので、そこのところをやるのがとっても大変だなと思いつつ、そこがくっきり切れてしまうんじゃダメだし、繋がってなきゃダメなんだけど、そこのところを歌いこんでいくと、すごくしつこい女になってっちゃうんだよね。だからそこを、ちょうどいいところをみつけられたらいいなって思うんだけど。
大石/僕はあまり難しいとは思ってやってなくって。というか、絶対難しくはやってやらないぞ、あたかも光さんが普通にしゃべっている、それが音になっているみたいにやってやろうなんて、意気込んでやってます。
─やっぱり50歳の光さんが書くのと、70歳の光さんが書くのとでは、書かれる音楽もね。
大石/違うだろうね。しかも、作曲の手法はいっぱい複雑に持っているから。このオペラは、ご機嫌で書いたんじゃないかなって思う。少年は少年で、生き生きと書いているしね。
梅村/少年の目線みたいなのに、興味があるのかな、林さんが。少年たちがおじいちゃんたちを見る目線みたいな。こどもの、ものすごい探求心や鋭さとかそういう。
最後にふたりからメッセージ
梅村/やっぱりね、他で公演する予定がないから、今回、逃さずに見てほしい!
大石/光さんが乗り移ったような、ふたりの新しい男性ピアノ詩人(五味さんと入川さん)のかもし出すメロディーにのって、このちょっとふしぎなオペラはたんたんと時間を刻んでいくので、皆さんを懐かしいじんわりとした時間にいざなうこと、請け合いです!
梅村/いま、自分の父の介護が現実にあるのね。「いままで忘れていたの、父と母のこと。でも自分がホームにはいってかんがえるのよ」ってトーラの歌の中にもあるんだけど、人生の中で、今、一番父と話をしていたり、一緒にいる時間がとても長いのね。なんだか、役と現実がそういうふうに直結しちゃって、それで思うんだけど、老いることを楽しめるようになっていくといいなと思う。同年代やそれより上の年齢のひとたちにも、このオペラを見て、ああ、楽しかった、これから先もまだまだ楽しいことがあるかもしれない、と思ってもらえたらいいなって思う。
こんにゃく座会議室にて。聞き手:田上ナナ子(制作)
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