◆オペラ『想稿・銀河鉄道の夜』出演者インタビュー その3
2016-11-30

齊藤路都
齊藤路都(さいとう・るつ)
2009年入座
富山県出身
武蔵野音楽大学卒業

オペラ『想稿・銀河鉄道の夜
生徒役 ほか

■こんにゃく座に入ったきっかけ

齊藤/こんにゃく座の名前は、大学の就職課の掲示板で初めて見て知りました。その時は名前だけでどういう団体か、どんな作品をやっているかは知りませんでした。その後卒業してすぐに二期会の研究所に入り、それっきりになっていたのですが、その後「音楽の友」でこんにゃく座のオペラ『ロミオとジュリエット・瓦礫のなかの』(2006年初演)の広告を見つけたんです。ちょうどその時、ベッリーニの「カプレーティ家とモンテッキ家」(「ロミオとジュリエット」)のジュリエットの歌を勉強していた時で、「ロミオとジュリエット」をいろいろ見ていて、その延長でこんにゃく座の『ロミオとジュリエット』公演を見に行ったのが最初ですね。実は、劇場に行って、幕が開いてから、この作品は林光さんの作曲で、日本語で上演されているということに気づいたんです!

―それは、「ロミオとジュリエット」をやっている団体ということでたまたま見に来ていて、こんにゃく座だからというわけで見に来たわけではなかったんだね。じゃあ、おや!?って思った?

齊藤/おや?というより、わー!知らない曲が流れてきたぞ、日本語で歌っているー!と思い、まさかジュリエットがショートカットで、しかも、めっちゃ走っている!というのがもう、衝撃でした。
私は、大学3年生の時に日本歌曲を少し勉強しただけだったんですけど、もっと勉強したいなぁとは思っていて、日本語でオペラをやっているこんにゃく座を知って、こんないい団体があるんだなと知り、これからは見に行こう!と思いました。

―大学生の時は音楽の学校だけど、ほとんどこんにゃく座との接点はなかったんだね。

齊藤/そうですね。それ以降、何本か公演を見に行っていてオペラ『クラブ・マクベス』(2007年初演)を見た頃に、ここに入るにはどうしたらいいんだろう…と思いはじめて、歌い手募集されていないかホームページをチェックしたり、大学の就職課に行ってみたり…、男性歌手募集というのはあって、そうかぁ女性はどこもいっぱいかと思ったが、あきらめずにチェックし続けていたら、その次の年くらいに女性歌手募集があって、入座試験を受けました。

―音大に行ったということは、こどもの頃から音楽の世界には興味あったんだね。

齊藤/小さい頃から、なんか音楽をやる人になろう、という思いはあったんだと思うんですけど、具体的に楽器なのか、歌なのか、お芝居なのかは漠然としていて、その漠然のまま大学に行ったって感じですね。でも3歳からヴァイオリンを習い、6歳でピアノを習い、だったので、もともと音楽は身近にありました。音楽に関わる人にはなりたいなぁと思っていました。

―そんな素敵な環境で育ててもらったのね。こんにゃく座に入った頃はビックリした?

齊藤/そうですね。ソングとか、旅公演の存在というのは全く知らなかったから、入ってからビックリしたことはいろいろありましたね。出演する人が仕込みバラシをするとか…。演劇の人たちってこうなんだよ、と言われて納得したりしていました。
全部お膳立てされていて、舞台の上にあがるのかと思っていたら、そうではなかった!もう衝撃でした!

―こんにゃく座は、なにもかも自分たちでやるっていうところだからね!

齊藤/自分がそんなことできるのかなぁ、仕込みしてから歌えるのかなぁとか、本番の後にバラシをするとかそんな元気が残っているのかなぁと心配でしたが…、元気、結構残っていましたし、やれましたね!

―そういうことも全部ひっくるめて、こんにゃく座だもんね。

■宮澤賢治作品との出会い

齊藤/たぶん、最初の出会いは3歳4歳の頃だと思います。母が寝る前によく本を読んでくれていて、そのひとつが「セロ弾きのゴーシュ」でした。ゴーシュのところに、猫が訪ねてきて、かっこうが来て、そのあたりまではゴーシュがずっと怒っていてちょっと怖かった。子狸のあたりまでいくと安心する。何回も何回も同じ本を読んでもらうんですけど、かっこうぐらいで眠くなってくると、怖い夢を見るので、がんばって子狸まで起きてるぞ、と思いながらいつも読んでもらっていました。「注文の多い料理店」もよく読んでもらいました。

―それは素敵な思い出ですね!自分で選んで宮澤賢治作品を読んだりしたこともあった?

齊藤/そうですね、小学生くらいで「どんぐりと山猫」や「オツベルと象」を読んだり、何作かは読んでいますね。5年生の教科書に「やまなし」が載っていてわからないなぁって、思いましたね。

■オペラ『想稿・銀河鉄道の夜』について

齊藤/実は、「銀河鉄道の夜」は読むことに何度も挫折して、何度もチャレンジしているんです。おとなになってからもなかなか読み切らない。やっぱり、宮澤賢治イコール「銀河鉄道の夜」という感じで、これを読まなければ宮澤賢治を制覇したことにならない!宮澤賢治を読んだと言えない!という気持ちがあって、結構苦しんで読んだ記憶ですね。何回か最後までは読んでいるんですけど、気が付いたら最後のページにきていて、読了感というか、話の終わりを見たって感じがしなかったんですね。

―制覇!したかったのね(笑)2010年のこんにゃく座での初演の時はチケット係でしたね。こんにゃく座で「銀河鉄道の夜」をオペラ公演すると聞いた時はどう思いました?

齊藤/とにかく読み切らなかったあの作品だけど、絶対成功すると思いましたね。オペラ『セロ弾きのゴーシュ』を見た時に、こんにゃく座と宮澤賢治はすごく相性が良いと思いました。『注文の多い料理店』も旅公演にスタッフでついていて、よく見ていたんですけど、「銀河鉄道の夜」も大丈夫!と思いました。完成するのがすごく楽しみで、実際見ても面白かった。起承転結していたというか、原作では得られなかった読了感に近いものを感じました。わかったって感じですかね。
ジョバンニとカムパネルラが一緒に銀河鉄道で旅をするところが、本を読んでもなかなか楽しめなかったんだけど、そこがやっと楽しかった。

―相性ね、きっと音楽だけでもこの物語を表すのには足りなくて、お芝居だけでも表せないところが、こんにゃく座の舞台で音楽と演劇が一緒になって、それがちょっとできたのかもしれないね。

齊藤/あの時、2010年の初演の時に自分が観てよかったなと思ったものを、今度は自分が演じる側で、観てくれる方がそれを受け取ってくれるといいな、来てよかったな、と思ってもらえるようがんばります。あと、いい音楽がたくさんあるので歌うのが楽しみです。今回は、初演のシアタートラムのギュッと凝縮した空間から、世田谷パブリックシアターの広い空間になるけど、パブリックシアターの天井にひろがっている青空が、ちゃんと暮れて夜になったんだなと感じられるようにできるといいな、と思います。

齊藤路都
2012年 オペラ『森は生きている』3月の精役

(聞き手・忠地あずみ/こんにゃく座制作)
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