髙野うるお(たかの・うるお)
1999年入座
東京都府中市出身
国立音楽大学卒業
オペラ『
グスコーブドリの伝記』
てぐす飼いの男、となりの沼ばたけの主人、ツイツイツイツイ 役
◆こんにゃく座に入ったきっかけ
髙野/うちは父方も母方も美術系の家系なんだけど、子どもの頃から自分には美術の才能はないなと思っていて。でも、何か自分で表現することをやってみたいという思いは昔からあって、歌が好きだったから音楽を選んで音大に行くことにした。でもまわりの人は、クラシック音楽とか、西洋の音楽をやりたいっていう人が多くって、ちょっと、自分とは合わない感じだった。自分は最初から自分の言葉(日本語)で表現する、日本の何かをやりたいって思っていたからね。
それで、大学で同じような考えの人たちが集まる、創作オペラの活動があって、そこで創作オペラをずっとやっていたのね。作曲とか、演奏も全部自分たち(学生たち)でやるわけ。そこにずっと入り浸っていた(笑)。
─それでいざ卒業となると就職どうしようって、なるわけでしょ。どうしようって思った?
髙野/ぜんぜん何も考えてなかった。就職活動もしなくって、本当に、何にも考えてなかったね。歌をやっていこう! とか、歌で食っていこう! とか、そういうがむしゃらな感じも、あんまりなくって。
創作オペラをやっていたこともあって、こんにゃく座の存在は大学時代から知っていて、「こんにゃく体操」をやっている人もまわりに何人かいて、小城さん(小城登さん。元座員。こんにゃく座創立メンバーの一人)とかに習っていたわけ。それで大学を卒業した時に小城さんから、「オペラ工房っていうのをやるんだけど、勉強しないか」って声がかかって、週一回通っていた。その時にこんにゃく体操の時間があって、宮川先生(宮川睦子さん。元東京芸術大学名誉教授)にも出会って。
結局オペラ工房には5年くらい通っていたかな。その間、三宅島で産休補助の教員で一年働いたりもして。それで5年くらい経った頃、小城さんから、長くやっているメンバーはオペラ工房を卒業して、新しく団体を作ったらどうかって言われた。小城さんとしては、こんにゃく座がやっていることは、それでいいんだけど、そういうことをやっている集団がひとつしかない、っていうことがすごく気になっていたみたい。だからこんにゃく座のように日本語のオペラをやるところを、別に作りたいという思いがあったみたいで。
それで始めたんだけど、なかなかどうもうまくいかなくって。劇団員は芝居からの子が多くて、オペラをやるっていう感じじゃなかったんだよね。自分も高校の講師や他の音楽の仕事をしながら続けていたんだけど、やっぱりそれぞれの事情とかでだんだんバラバラになっていって、集団をただ維持し続けてもあまり意味がないから、そこでもうやめて。講師とかを続けていく道もあるかなと思ったりもしたんだけど、でもやっぱり何か表現したい。日本語の歌で表現することをやりたいって思って。もうひとつ何か挑戦してみて、ダメだったらすっぱりとやめるっていうのもあるかって思って、こんにゃく座のオーディションを受けることにした。受かったらどういう生活になるかもわからずに受けたんだけど、講師の仕事とかはすぐにはやめられないから、いったん断る感じになってしまって、それからどうしようかなと改めて考えて。年が明けて2月に『
ロはロボットのロ』を観に行った時、そこでやっぱりこんにゃく座のやっていることは自分のやりたいことに近い感じがして、講師とかをやめて、こんにゃく座に入座することに決めた。
◆宮澤賢治作品との出会い
─宮澤賢治の作品は子どもの頃から読んだりしていた?
髙野/高校の時かな一番読んだのは。なんかひかれるものがあったんだよね。
「やまなし」とか不思議でさ、おとなが読むと分析したくなるじゃん。クラムボンってなんだろう、とか。子どもの頃は、そういうものがないから、頭の中で勝手にクラムボンっていうものができあがるんだよね。その想像したものが笑っているとか、そういうことを勝手に思っている。なんかそういうことを想像させる賢治の言葉がすごいなと思ったんだよね。
賢治の作品からは一見偽善的な印象をうけるんだけど、でも読んでいるうちに、思いというか願いみたいなものがしっかりあるってわかる。賢治は、妹も死んじゃうし、自分自身も病気だし、いろいろつらい経験をしているからこそ、書いているっていうさ、恵まれた作家がユートピアを書いているとかっていうのとはちょっと違うんだよね。
◆オペラ『グスコーブドリの伝記』
─ブドリは、読んだことがあった?
髙野/うん、読んでた。やっぱり最後に、自分が犠牲になるっていうところが大きな印象だよね。ブドリはこどもの時にそうとうな厳しい体験をしたんだよね。それでつらい目に合いながらも、なんとなく人に助けられていく。助ける人も、てぐす飼いとか、赤ひげの主人とか、なんかいい人なんだか、悪い人なんだかわからない人に助けられていく。でもその経験があったからこそ、彼らをなんとかできるのは自分しかいないってブドリが思う瞬間があってさ、なんとかみんなを幸せに、普通の暮らしができるようにって願うんだと思うんだよね。
寺さん(寺嶋陸也さん)の音楽はなかなか楽しいよ。ダイナミックだなって思う。萩さんとか光さんの曲になれているから、最初はちょっととまどった感じもあったけど、でも稽古していくうちに、感覚的にわかってくるっていうか、音楽がわかってくると、なるほどね、っていう感じで。当たり前だけど、物語の筋に沿って音楽が書かれているから違和感もないし。暗いとか、悲しさみたいな印象はなくって、お客さんにも全体としては明るい雰囲気を感じてもらえるんじゃないかなって思うよ。
2010年 オペラ『想稿・銀河鉄道の夜』大学士役(中央が髙野うるお)
(聞き手・田上ナナ子/こんにゃく座制作)