佐藤久司(さとう・ひさし)
2001年入座
秋田県出身
東北大学卒業
オペラ『
グスコーブドリの伝記』
賢治、グスコーブドリ 役
◆こんにゃく座に入ったきっかけ
佐藤/大学生の時、合唱団で活動しているうちに、音楽を仕事にしたいって思うようになって、卒業してからも合唱を続けていたんだけど、2000年になった時思い切って東京に出よう、と思ったのね。その時に一緒に合唱をやっていた、合唱団じゃがいもでも活動されていた吉田さんっていう方がね、こんにゃく座の公演のチケットをくれたの。光さんや、萩さんの曲も合唱団で一緒に歌っていて、こんにゃく座というところが、もともとその歌を歌っていたところなんだよ、って教えてくれて。
2000年2月にやった『
注文の多い歌劇場』でね、Aプロ、Bプロ、Cプロとあったんだけど、全部のチケットをくれたの。それで観に行ったら、すごい、良かったんだな。何が良かったかっていうと、舞台の人と観ている人の距離感がすごくいい感じだった。このほっとするような空気はいったいなんなんだろうって感じて、この人たちと一緒に仕事をしていったら楽しいんじゃないかな、と思った。
それでこんにゃく座に電話をして一回会ってもらったんだけど、オーディションの時期が過ぎていたのと、芝居の経験も無かったから、一年間勉強をしてからオーディションを受けてみたらって言われて。それで、黒テントの俳優基礎学校に通いながら、歌は大石さんにみてもらった。
─個人レッスン?
佐藤/そう、個人レッスン。それでこの間にこんにゃく座の他の舞台も観に行って。あの当時だから、『
にごりえ』とか、『
三人姉妹』、旅公演の『
ロはロボットのロ』とか、『あまんじゃくとうりこひめ』も観て、ますます良いなと思って。
─初めて見た時の、距離感が良かったって感じたのは、距離が近い感じがしたってこと?
佐藤/なんかね、近すぎず遠すぎずっていう絶妙な距離感だった。一緒に同じ空気吸ってるな! て感じがするわけ。舞台の上なんだけど、同じ空気一緒に吸ってるな、ていうね。それがなんか居心地がいいなって。
◆宮澤賢治作品との出会い
佐藤/一番最初は、小学校の教科書に載っていた「やまなし」。
あれ? 今まで教科書に載ってたものとは、ずいぶん違う気色のものだなって思った。それまでのものとは全然違う世界、違う表現だなって。
一回読んだだけだとなんのことだかわからなくって、不思議な詩、っていうかお話だなぁっと思って。授業でやっていくうちに、やっと、あ、これ、川の底の蟹の話なんだなぁっていうことがわかって。
─わかんない感じっていうのは、わかんないからちょっと苦手って感じか、わからないから逆に興味深いっていうのかは、どっちだったの。
佐藤/「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ」て、なんのこと? てまず思った。クラムボンっていうのが一体何なのかわからないし、かぷかぷってのもそれまで聞いたこともなかったし、ちょっと違う世界の違う表現っていう感じで、とにかく結構衝撃だったのね。これが好きかどうかっていうよりも、ちょっとびっくりっていうか、なんなんだこれ、ていう感じ。
それでその後、学芸会の「よだかの星」でよだかの役をやったんだよね。
─えー、すごいすごい!(※注 こんにゃく座のうたものがたり「
よだかの星」で佐藤久司はよだか役)
佐藤/だから、こんにゃく座でもよだかをやったのはなにか運命的なものを勝手に感じたりして…
─こんにゃく座に入座してから初めて出演した賢治作品は、『
どんぐりと山猫』?
佐藤/そう、出演は『どんぐり~』。2003年から一郎って少年の役で5年くらい出演したんだ。『どんぐり~』は子どもがどんぐり役で本番に出演する作品で。全国の子どもたちと一緒にやって楽しかったな。今でも旅で地方に行くと、その時どんぐりをやってた子が「どんぐりやってました」っていう時があって、その子がすごく大きくなっててガク然とする(笑)。賢治の作品で印象に残っているのは『
セロ弾きのゴーシュ』。
入座した年に『ゴーシュ』の旅に裏方でついてて、その時から『ゴーシュ』の音楽にほれてます。
─『どんぐり~』や『よだかの星』、2007年の新演出『
セロ弾きのゴーシュ』、『
想稿・銀河鉄道の夜』とか、わりと賢治作品には出演しているね。
佐藤/そうだよね。
同じ東北地方出身だからか、賢治には親しみが持てる。言葉の言い回しとか、ああこういうことを言いたいのかな? とか。風のああいう感じ、とか、水のこういう感じ、とか、そういうのをこんなふうに表現したいんだなぁみたいなのとか、方言も含めて、けっこう楽しい。だから賢治作品に出演できるのは、毎回嬉しいです。
◆オペラ『グスコーブドリの伝記』
─「グスコーブドリの伝記」は、前に読んでいた?
佐藤/作品は知っていたけれど、ちゃんとは読んでいなかった。
切ないお話なのかな、と思うんだけど、なんかね、観る人にあんまり悲しい気持ちになってもらいたくないな、と思っていて。『銀河鉄道』もそうなんだけど、命が別の形で光輝くっていう、そういう幸せもあるんだな、ていうふうに、思ってもらえたらなぁって。なんか心がじーんとあたたかくなるような、心に灯がともるような、そんなふうに思ってもらえたらいいなと。自己犠牲っていうことでもなくって、世の中のためとか、まわりのためにがんばるのが、ブドリにとっての本当の幸せなんだなって。
かといって、みんなでこういう世界にしましょう! ていうおしつけじゃなく、そう思ってもらえたら嬉しいなって…。
─今回初めての寺嶋さんの作曲については。
佐藤/どういうふうな曲がでるのか、すごい楽しみ。…だけど、難しすぎて歌えなかったらどうしよう!!
2014年 オペラ『セロ弾きのゴーシュ』三毛猫役(跳んでるのが佐藤久司)
(聞き手・田上ナナ子/こんにゃく座制作)