◆ うたものがたり『よだかの星』衣裳デザインについて2018-03-14
うたものがたり『よだかの星』の衣裳をデザインしたのは島田大翼。
衣裳について島田大翼自ら解説します。
─『よだかの星』の衣裳デザインは、最初は演出の大石さん(
大石哲史)と相談するところからはじまったの?
島田(以下、島)/最初は大石さんとざっくり話して、それからデザインを考え始めたと思うんですけど、あまり最初から細かく話していろいろ決めたわけではないですね。僕のほうで、こういう風にしましょうかね、と提案した部分も多いかもしれないです。2009年にこんにゃく座でやるってことになったその3年前に、キラリ(キラリ☆かげき団)でよだかをやった時も大石さんが演出で僕が衣裳を作ったので、その時の大石さんのやりたい方向っていうか、なんとなくこういう感じっていうのは頭に残っていたので、僕のほうからこういうのはどうですかっていうことで画を出したんだと思うんです。そこに、今回はこういうふうにしたいっていう、大石さんの意見を聞いて、ちょっと変えたりしました。一応画は残っているんですけれども(と言って、画を見せてくれる)
2009年4月頃に描いた、鷹とそのとりまき、そしてよだかの衣裳案
─実際の衣裳はほとんどこの画、そのままだね。
島/そうですね。今日はちょっとずつですけど用意してきたんですよ(と言って、iPadで写真を見せてくれる)。これがキラリの時の写真です。このときは30着くらい作ったかな。よだかをやる人たちを茶色っぽくして、鷹をやる人たちをグレーにして、大きく分けてその二色にしたんですよ。
2006年12月、キラリ☆かげき団による「よだかの星」公演
─よだかのかぶっている野球帽はどこから出てきた案なの。
島/野球帽は、少年性を出したいってことで、キラリの時に大石さんが。こんにゃく座のときにもキラリを踏襲して僕から出したんです。最初は、肩に
筵を付けようかなと思ったんですよ。なんかバサバサっとした羽ってことで。実家(熊本県)から筵をもらってきて作ってみたんだけど、大石さんはよだかにグローブを持たせたいっていうのがあって、グローブと筵と両方つけてみたらちょっとごちゃごちゃしちゃったんで、筵はやめたんです。ただ今回自分がよだか役をやるにあたって、全体の色が褪せてきたこともあったので、筵を描いたときのイメージで、肩のところに新たな布を継ぎ足して染め直しました。
─画では、鷹のマントの内側に手形があったんだね。
島/最初は、こう手に白いものを塗ってペタペタやって、手形っぽく模様をつけようと思っていたんですよね。鷹のマントはピアノカバーをイメージして作ったんですけど、作ってみたら案外きれいにピアノカバーっぽくなって(笑)。これに手形をつけると、ピアノカバーらしさが無駄に半減するかなと思ってやめました。キラリでは、よだかが茶色で鷹がグレーでしたけど、こんにゃく座は体育館での公演もあるし、見た目もう少し彩りよくしようと思って、鷹は赤ベースにしました。
─デザイン画を書く時って、素材のイメージもあって書いているの。
島/ありましたね。この時は特に、キラリで使った衣裳をばらしてそれを使って作るという前提があったんですよ。だからキラリの衣裳で使った布をもとに形を作って、それを染めました。パンツはみんな既製品を買ってきて、それをそれぞれの色に染めて使ってます。
─こんにゃく座の星座は大翼プランなの?
島/星座は僕ですね。これも一応画を描きましたよ。
星座のデザイン案
─この画は初めて見た気がする。
島/あんまりみんな、見たことないでしょうね。星座は、人の体のまんまでやるというよりは、見た目にちゃんと星座っていうことをやりたいと思ったので、そのへんは僕の思いでやっちゃった。よだかが死に向かっていくので、なんとなく“骨”ということをやりたかったんですよね。だから、星座はそれぞれの動物の頭蓋骨をモチーフにした仮面を作ろうと思って。頭蓋骨の部分は、ウレタンをはさみで切って形を作って、それに布を貼ってスプレーで色をつけてるんです。
─星座を体でやらないっていうのは、大石案?
島/いや、僕です。これも細かい話なんですけど、1993年にこんにゃく座が『
わたしの青空─ケンジのエノケン』を公演したときに、紺色の布にキラキラがついたものをみんなが持って、それで星を表わしているのを映像で見たんですけど、その感じがよくて、それをやろうと思ったんです。この頭蓋骨の部分、デザイン画には「中から発光」とか書いてあるけれど、電気を使うことになっちゃうからそれはそうしなくって、穴にギラギラした素材を貼って光らせることにしました。これただのアルミホイルじゃないんですよ。昔近所のパン屋さんから頂いた、ケーキを包むための銀色のシートがあるんですけど、それを。
─アルミホイルはぐちゃっとなってしまうけれども、ちょっとこしがあるっていうか。
島/そうなんですよ、それにアルミは裏面がマットだったりしますが、これは両面ギラギラしてる。別に裏面は出ないんですけどね(笑)。本当に話し出すとひとつひとつめちゃくちゃ時間かかるんですけど(笑)、たとえばオリオンは人間の頭蓋骨が三つ目になっていて、布にもオリオン座が一応ついているんです。これはよく見ないとわからないかもしれないけど(笑)。他の星も、目の数を2にはしないってことにこだわって…3、1、5、4ってなってます。
オリオン座
─へー。こういうことって、みんな知らないんじゃない?
島/みんなが知らないこと、結構あると思います。例えば、おおいぬ座の頭蓋骨の形は、ヤッターワン(テレビアニメ「タイムボカンシリーズ」に登場した犬型のメカ)っていうメカをイメージして作っているんです。それと、これはぜひ書いてほしいんですけど、「アクトレイザー」っていうスーパーファミコンのゲームがあって、一面クリアするために最後ボスを倒す、二面もボスを倒す、三面もって、七面くらいまでやっていって、そうすると最後に、そのこれまでに倒してきたボスたちと戦わなくちゃいけないんです。それで、その時にそれぞれのボスの
骸のような大きな仮面に取り囲まれて主人公がぽつんと立っているっていう絵があるんですよ。その怖さというか、その絵のイメージが結構強いんですよね。最後に、ぽつんといる存在が大きな頭蓋骨に囲まれているようなことがよだかでもやりたくって。よだかは実際に囲まれる瞬間はないんだけれど、2011年にやったソロコンサートで僕が「一人よだか」をやった時には、出てきた星座をはけさせないで周りに残していって、最後によだかである僕が囲まれるっていうのをやりました(笑)。星座はよだかにとっては希望だと思いますし、逆に星たちにとってのよだかは無関心の対象といったら変ですけど、愛のない状態かなっていうふうに思うんですよね。冷たさっていう意味もあって、僕のイメージが骨なんですよね。初演のときはどの星座も薄い紺色みたいな色でしたけど、ツアー2年目のときにそれぞれの色を変えてほしい、と言われて塗り替えました。それでもみんな死のイメージだけは残したいので、僕なりの配色でそのことを目指しています。
SFC「アクトレイザー」最後の面
色の話でいうと、全員が着ている基本衣裳ってのがあるんですけど、味噌色の茶色いよだかと、血の色の赤ベースの鷹がいて、色合いとしてはあとふたりを青と緑というふうにしたかったので、かわせみをやる人は川の色の青にしました。それで緑のほうは、これ、
羊歯なんですよ。「羊歯の葉は~」ていう歌の時に一番前にいるんですよ。これもキラリで梅村さんと岡原さんがその歌の時に着た緑の衣裳をバラして使っています。それからピアニストの黒は、理屈としては夜の黒なんだけど、イメージしてるのはカラスですね。今回サックスの野原さんのためにもう一着黒を作りました。
鷹、とりまき2羽、かわせみ、よだかの帽子
─鷹のとりまきの小さいシルクハットは、衣裳の色と合わせているんだね。
島/そうです。もともと僕は、小さい帽子を、被るんじゃなくて頭に載せるっていう絵が好きなんですよ。言ってしまえば僕は舞台衣装に関してもう絶対的に“被り物主義”で、コロスの時なんかはいいけれど、役をやる時は絶対なにか被ってなきゃいけないって下手に思いこんでいるもので(笑)、絶対被らせるんですね。
─被り物主義(笑)!
島/こういう考えは、特にファンタジーの舞台衣裳としてはある意味一般的なのかもしれないけれど。自分が客席から舞台を見ている時にも、役をやっている人の首から上を主に見るから、その時に首から上が地のその人だと、役をやっているということにたいしては物足りなくて。何かしら頭の上に役の象徴を乗せておきたい、って思ってしまうんですよね。
─よだかの野球帽も羽みたいなものがついている?
「ジョジョの奇妙な冒険」13巻より
島/ついてますね。「ジョジョの奇妙な冒険」っていう漫画に空条承太郎っていうキャラクターがいるんですけど、このキャラクターが、髪の毛が帽子からはみ出ているみたいな感じになっているんです。髪が帽子から出ているのか、髪と帽子がグラデーションみたいにつながっているのか、そんな風になっていて。その感じが好きだからよだかも、どこまでが帽子でどこからが羽かってのをすこし曖昧にしてあります。鷹のシルクハットも同じですね、つばの部分に羽根をたくさん貼ってあるんですけど、布地と羽根のつながりをできるだけ曖昧にしてる。それにこのシルクハット、これね、裏地がいいんですよね、高級な感じで。
─本当だね。見えないのにね。
島/僕、だいたい裏地、こうなんですよ。『森は生きている』の四月の精の帽子もぼくが作ったから、裏地が真っ赤なんですよ。裏地って見えちゃいけないものじゃないですか。だからこれは、演じる人にたいする圧力っていうか、「見せちゃいけないんだからね」っていうことでもあるし、ぱっと被らなくちゃいけないときに、表裏を間違えないように、明らかに違う色にしようっていう小さな親切心もあって。
─なるほどね。そこらへんは、大翼も役者だからこその、気遣いや工夫っていうのがあるんだね。
島/それから、自分が作る場合は季節感がないのもいやなんですよ。
─それは、公演をしている時の季節? それとも作品の季節?
島/公演している時の季節。特にうたのステージとかは。この季節なのになんでこれを着なきゃいけないの、ってなるのはどうしてもいやなので。
─いやなのは、プランナーとして、それとも役者としていやなの。
袖だけ染められたTシャツ
島/両方ですね。プランナーとしても、夏なのにこんな厚着させられてるって見えるのもいやだし、役者としてもいやなんですよね。自分が汗っかきなものだから余計にそう思うのかもしれない。逆に冬の体育館で寒々しい格好させられてるのもなんだかつらいので、特に腕の出る女性2名の衣裳には、冬の体育館用の袖だけ染めた長袖Tシャツというのも存在します。現場で実際に使われているのかどうかはよく知らないんですけど。
うたのステージの衣裳
─次に、うたのステージのほうの衣裳のコンセプトは?
島/完全にスマップですね(笑)。「SMAP×SMAP」(スマップが出演していたバラエティ番組)の最後のライブで着ていそうな衣裳にしたくて、色味は揃っていて、でもちょっとずつ形が違うっていうデザインにしました。それから、わざわざそうしたってわけではないんだけど、一見よくありそうで、でも実際はあまりないような形のものもちょこちょこあるんです。例えば、ただのベストなんだけど、前を開けて着るためにわざとかなり脇を詰めているから、逆に閉じて着るのは不可能になっていたり、ジャケットも、前を開けて着るから、ボタンもつけなかったり。
よだかのほうを戦隊ものみたいに、茶、赤、青、緑、黒をベースカラーにしようっていうのがあったので、うたのステージはできるだけ色使いのないようにして、白からグレーまでのトーンの中でできることをやろうと思いました。あと、左右対称っていうのがあるんです。これは結構大きくって、よだかのほうはやや左右非対称になるように作っているんです。それでうたのステージのほうは、ほとんど左右対称になるように作ったんですよね。
─初演の時にデザインをして、こんにゃく座の公演形態だと、出演者も年によってかわっていくだろうってことは想定していたと思うんだけど、デザインには初演メンバーのイメージとかの影響も大きい?
島/逆に僕は、それでしかないですね。申し訳ないけど、もうその後の人のことは考えてない。変わったらそのときに考えればいいって思って。実際、初演した次の年には大きく作り直しているんです。
─それは人が変わったから?
島/だけではなくて、萩さん(萩京子)がもうすこしフォーマルにしたいって、言ったんですね。それでジャケットを作ったり、新たに入った人のためにも作り直した。はじめから旅演目ってことがわかってるんだから、座としてはそういう風(人に合わせて作り直す)にしないほうがいいのもわかってはいたんだけど、デザインしている島田としては、できるだけその人に合うものにしたいなって。今回は人も増えたし、新しく4着くらい作っているけれども、まあたぶんその人にしか着られない(笑)てわけじゃないんだけど、その人用にっていう感じで。
今回新たに作ったやつだとたとえば、沢井さんは「テノールベスト」、富山さんは「タイガース」、熊谷さんは「踊る大紐育」、冬木さんは「クールビズ」、みたいな着想点がなんとなくあって、それを具体的なデザインにしていく、というふうにして作っています。
新たに作った4人分
─さっきの話に出てきた「アクトレイザー」とか、「ジョジョの奇妙な冒険」とか、発想の源で「〇〇」みたいにって考えることは多いの。
島/「〇〇」みたいにしたいって、結構いつも思ってますね。デザインのとっかかりは基本的にゼロから考えるんだけど、どこかで自分の知識のなかにある何かのイメージに近いなって思ったら、あえてそれに寄せていくというか。なんにしたってもう誰かが通った道だろうっていう思いもあるから、だったらもうあえて意識して、そういうふうにやってみるってことですね。
─それは、これは何かに使えそうだなって、自分の中にストックしたりすることもあるの。
島/いや、それはあんまりないかなぁ。たまたま、こういうデザインにしたいから、ああそれならあれみたいにすればそうなるんじゃないか、という順序で。僕、共通点を探すのが、どうやら好きなんですよ。あ、ここにいる人全員早生まれだ、とか、ここにいる人全員AB型だなとか(笑)。初めて会う人も、あの人に似ているなとかすぐ思いがちだし、でもみんなには大否定されるから、たぶんセンスとしてはちょっと独特なんですけど(笑)。
─なにかを考えるときに、これはあれに似ているな、これっぽくしてみようって、思いつくってことなんだね。こんにゃく座の作品でまた衣裳のデザインしたいなって思う?
島/それは思いますね。よだかももう9年くらい前のことだし、いまやったらまたちょっと違うかなとも思いますね。
(聞き手・田上ナナ子/こんにゃく座制作)