◆うたものがたり『よだかの星』出演者インタビュー その4 島田大翼2018-03-01
オペラシアターこんにゃく座 歌役者
島田大翼(しまだ・だいすけ)
2005年入座。熊本県阿蘇郡小国町出身、東京学芸大学卒業。
テーマ:「お裁縫」
─大翼と言えば、お菓子とか楽器とか、得意そうなことがいろいろあるんだけど、今日はお裁縫について。始めたのはいつ頃。
島田(以下、島)/裁縫は大学に入ってからですね。三年の時にグループを作って大学でオペラをやるってことになって、必要になったんでミシンを買って始めたって感じなんです。
─みんなで衣裳や小道具なんかも作っての発表だったの。
島/そうですね。それよりも前に、オペラをつくる授業があって、お金をかけられるものでもないので必要なものをそろえればよかったんだけど、僕のこだわりで、手縫いで衣裳を作ったりしたんです。そのあとにグループを組んでオペラをやるってことになった時に、それなりの技術が必要だなって思って。そこから勉強してちゃんと縫い物をするようになったんです。
─勉強っていうのは独学?
島/それはもう独学ですね。勉強というよりは経験を積むっていうか。とにかくいろいろなものを作ってみるってことですけど。
─最初、授業でオペラをつくったというのは加藤先生(加藤富美子先生)の授業?
島/そうです。中学・高校の音楽の先生になるための勉強を、四科目くらい受けなきゃいけないんです。それぞれ別の音楽教育の先生につくんですけど、加藤先生についたら、音楽劇の発表をみんなでするっていうことがあって、その時に『魔法の笛』をやったんです。当時は裁縫の経験もほとんどなくって。高校の時も家庭科が苦手だったので、とにかくなんとか無理やり形をつくるってことだけやったんです。
─それは、本とかを見ながら?
島/いや、その時は本を見てどうこうっていうレベルじゃなくって。そもそも布を買うっていう発想もなかったので、古着屋で買ってきた服をほどいたり、切って布として使うとか、そういうレベルでやってましたね。
─もともと物づくりは好きだったの。
島/図工は好きだったんですよ。でも家庭科っていうのはまるでダメだったんです。指を使って物の形を変えたり、物を作るっていうのはすごく好きだったんですけど。
─家庭科で、料理やお菓子を作ったり、縫い物をするのも楽しくなかったの?
島/その頃は楽しいって感じではなかったかな。いまも楽しいといえば楽しいけど、どちらかというと、人に喜んでもらうっていうことが、うれしいのかもしれないですね。父がわりとそういう人なんです。人を喜ばせるのが好きなんです、どうやら。もてなすのが好きだったり。人を喜ばすことが自分の喜びっていう部分は、血を受け継いでいるんじゃないのかなってたまに思いますね。だから縫い物もそうですし、お菓子を作ったりもそうだけど、自分が着たり食べたりっていうためにはほとんど作らなくって、人に着てもらったり、食べてもらったりっていうことがうれしくてやっているんじゃないかなって思いますね。
─なるほどね。それで自発的に縫い物をし始めたのが、大学の時で。
島/そうですね。グループを組んだのが大学三年の初めで、授業の発表では『魔法の笛』の一幕しかやらなかったんで、全幕をやろうってことになって。その時に僕が衣裳を作りたいって言って、それでミシンを買ったんです。縫い方とかもわからないまんま、夜の女王のドレスをなんとなく作ったんですけれども………、違うな。そうだその前に、まだグループを組む前、こんにゃく座の人が来てワークショップをやるって言われたんです。僕は授業でやって以降音楽劇なんかやる機会がないと思っていたから、喜んで、ミシンを買ったんでした。それで、ドレスを作って。僕“ワークショップ”って言葉がなんだかわからなかったから、何かやるんだったらってことで、そのワークショップのためだけに作ったんです。パパゲーノとかも全部作ったんですよね。それを僕は徹夜で仕上げたもんだから、ワークショップ当日は寝てた(笑)。
─その時はこんにゃく座は観たことがあったの。
島/ビデオは見たことがあったんですけど、公演はないですね。ワークショップに来た大石さん(大石哲史)が(ビデオに)出ていたことにもまったく気づいていなくって(笑)。それでワークショップの後は、声楽科やピアノ科の人たちからドレスを作ってほしいって言われて、なんだかんだ30着くらいは作ったかな。
─そうなると、デザインも考えるわけでしょう。
島/考えますね。ちょっとした普段着みたいなものを作るよりも派手なドレスとか作りたいんですよ。お菓子でもそうなんですけど、クッキーとかはあまり作らないんです。見た目にドーンとインパクトのあるものが作りたい。みんなが「わあ」てなるような。一回、友達の結婚式の時に、ウエディングドレスとウエディングケーキと両方作ったりしましたけど、それなんかわりとやりたいようにやれて、楽しかったですね。こんにゃく座に入ってドレスを作る機会があんまなくなってきちゃって。ドレス作りたいな。
─お菓子も縫い物も、失敗することってあるの。
島/失敗しますよ。失敗しては証拠隠滅しているっていう(笑)。この間のファンクラブ感謝祭でも結構な人数分のケーキを作らなくちゃならなくて、いつもよりも多めに作ろうとしたら、分量とかいろいろあわなくて、実際には出さなかったやつとかありました。失敗はすごくするんです。成功しているのと同じ数くらい失敗しているかもしれない。
─お菓子も裁縫も、目分量ではできないっていうか、細かい作業だよね。
島/そこはまあ、そういう性格というか、細かい性格が役に立っているかな、て思います。お菓子も作り慣れているものはわりとざっくり作りますけど、毎回結構細かくやっていますね。ケーキに関しては形作りとかも緻密にやらざるを得ないっていうのがあって、特にタルトとかですね。タルトの型に、いかにうまく生地を敷くかっていうのはもうかなり緻密な作業をやっています。縫い物でも、世には縫い代を含めた型紙っていうのがあるんだけれども、僕は断固、縫い代を含めない型紙派なんです。含めた型紙だと、例えば縫い代1㎝だったら、布の端から1㎝のところをミシンで縫えばいいんだけど、もうそんなことは信用ならない。だから必ず出来上がり線を引いて、その線の外側を縫うっていうのを絶対やりますね。“なんとなく”ができないていうのがあって。左右対称のものを二枚切る時とか、本当は重ねて切ると早いんだろうなと思いつつ、絶対できない。一枚ずつ切る。
─そういうふうに自分のやり方にこだわってやることが満足につながるのかな。
島/そうですね。細かいこと、集中力を使うようなことを、指先を使ってひたすらやるっていうのが好きなんです。そういうものは労力や手間を惜しまずに、とにかく完成形を美しくするためにやるっていうことですね。
─縫い物とかお菓子作りっていうのは、大翼にとって自信のあることって感じ?
島/人に出したりしているから、自信ないって言ってしまうのもどうかなと思うけれども、ちゃんと基礎を学んでいないっていう意識があるから、素人は素人だと思うんですよね。アマチュアとしてやってるっていう自覚があります。それでも一生懸命やっているんですよ、とは言いたいですけど、自信があるっていう感じじゃないですね。
アコーディオンとか楽器に関しても、全部、付け焼き刃感がするようなところも自分ではあって。もっとちゃんと基礎を勉強したら、自信つくんじゃないかなって思っているんですよね。他の場所でそれで仕事できるかというとできないと思うし、なんか独特なやり方だなって思われるんだろうなって。
─そうか。見ていて、独学でそこまでのレベルに達することができるからすごいなといつも思うけどね。デザインするのと実際に作るのとでは、どっちが好きなの。
島/好きの種類がぜんぜん違うような気もするから、うまく言えないんだけれども、舞台芸術としての全体を考えていくっていうのは楽しいから、衣裳をデザインすることは、それはそれでおもしろい。ただ、縫うのが好きなのは指先を動かすことの物理的な楽しさっていうのがあるから、ちょっと違う人格でもって好んでいるな、という感じですかね。だから、デザイナーとしての島田大翼が出したデザインを、縫い子の島田大翼が喜んで縫っているって感じで(笑)。いまネットで注文を受けて販売している“ダボン”(島田が作る、膝下丈のゆったりしたズボン)も自分でデザインして、自分で作っています。いまはまだ、こんにゃく座の歌役者である僕を知っている人からの注文がほとんどなんだけど、今後、僕を知らない人がダボンを通して僕を知ってくれて、こんにゃく座を観に来てくれないかな、という野望もあったり、いろんな夢を抱えての、このダボンなんですよね。ダボンの主題歌とか作りたいなとか、プロモーションビデオも作りたくって、アクロバットだったり、ダンスだったりとか、これを履いてこんなにいろいろ動けますというようなことを録って流すとか、DVDに焼いて、商品と一緒に送るとか(笑)。
島田の作ったダボンを穿く森組の人たち(座日記より)
─まず、ダボン専用のサイトを作ったらどうかね。
島/そうなんですよね。いま
自分のブログにしか詳細を書いてないので。
─それでそこに注文できるフォーマットがあったらいいよね。
島/歌役者としての僕より先に、ダボン製作者としての僕を知って、そこから、「え? 歌も歌うの?」って(笑)。
─編み物とかは、やらないの?
島/やったことはありますね。でもあんまり。きっちり編みすぎてマフラーが板みたいになってしまった。ビーズ細工は好きなんですよ。いまは部屋がちらかっていて、こたつに入れないんですけど、冬場はこたつに入って、ビーズ刺繍とかビーズ細工とかするのが好きなんです。これは至福ですね。いま、自由な時間があったら何しますかっていう質問をされたら「こたつに入ってビーズを編み続けたい」って言いますね(笑)。
(聞き手・田上ナナ子/こんにゃく座制作)