こんにゃく座と宮澤賢治
◆オペラ『想稿・銀河鉄道の夜』出演者インタビュー その9
2017-01-11
■こんにゃく座に入ったきっかけ
北野/最初の出会いは、10年ほど前、どこかの芝居を見に行った時の折り込まれていたキラリ☆かげき団(富士見市民文化会館・キラリ☆ふじみに集う、こんにゃく座が指導に行っている市民歌劇団)のワークショップのチラシを見て、行ってみようかなと思い、そのワークショップに参加しました。その時の講師が、大石さん(大石哲史)と岡原さん(岡原真弓)でした。
―その時ワークショップに参加しようかな、と思ったのはうたに興味があったとか?
北野/特にうたというわけではなくって、もともとは芝居でした。大学生の時に演劇のサークルにはいっていて、卒業後に文学座付属演劇研究所にはいったんですけど、講師で小城さん(小城登さん。元座員。こんにゃく座創立メンバーの一人)がいらしていてその時に歌うことやソングについて知りました。研究所は1年いてその後はフリーで芝居に出たりしていて、でも小城さんとも交流があり、役者の歌ううたがいいと言って役者たちを集めて歌わせたりしていて、そこでうたとか音楽劇とかが自分にとっても近いものになった感じですね。こんにゃく座という団体があるということもその頃知り、それからしばらくたってキラリのワークショップのチラシを見て、あっこれはという…感じですね。
―こどもの頃はどうだった?人前に出て何かやったりするのが好きだったの?
北野/それはぜんぜんなかったんですね。3歳頃は床屋に行くと必ず演歌の「北酒場」を歌うという謎の行動はしていたようですが(笑)、でも特にうたを歌うことが好きというわけでもなく、音楽を聞くのが好きだとか、舞台を観に行くとかってこともなかったですね。音楽は特に学校の音楽の授業くらいでしか縁がなかったので、こんにゃく座に入ってすぐ最初は楽譜も読めず、音符の長さとかもよくわからず。これがドでしょ、ド、レ、ミ、ファ…って最初から数えないとわからない感じでしたから(笑)
大学に入って、1年生のサークル勧誘時期にたまたま声かけられて、そうかぁと思って演劇サークルにはいったのが始まりですね。
―ゆうちゃん(北野雄一郎)は大学も法学部だしね。ずいぶん違う世界に入ることになって、それは勇気のいる決断だったんじゃないかと思うけど、それはまたどうして?
北野/そうですよね(笑)ぼくも一応就職活動もして内定ももらったのですが、いざという時期になってやっぱり…とその内定を断って…。演劇の世界を少し知ってしまい、それが楽しかったんでしょうね。これをやることで世間に対してどうとかということではなく、自分にとって何が一番楽しいと思うか、何が一番やりたいことかと、人生一度っきりだから、と思ってですね。
―自分の気持ちに忠実に生きよう!ってことだね。それが大切だけどなかなか普通は実行できないんだよね。演劇からはいってうたにも興味持ったってことなのかな。
北野/あまりうたの世界にとも思っていなくって、芝居の中にうたがはいっているという感じだったんですけど、キラリのワークショップから、歌劇団へも誘われて『まげもん-MAGAIMON〜キラリ☆ふじみの陣』(2007年、キラリ☆かげき団との合同公演)に参加して、そこで鄭さん(劇作家演出家・鄭義信さん)演出の『まげもん』の世界にふれて、芝居とうたがうまくミックスされているんだなっと思って、そこからこんにゃく座に興味が出てきたんですね。こんにゃく座の舞台は、どの作品も芝居とうたが対等にあるのが面白いと思います。それと、ぼくは、声を出すのがどうも好きみたいで、セリフだからとか、うただからということ関係なく、声を出すこと自体が楽しくって。その延長で歌うことも楽しいと思い、歌うことに興味を持ったんだと思います。
こんにゃく座へは、キラリ☆かげき団での『まげもん』の稽古の前だったか、突然夏頃に大石さんから連絡があって「オーディションを受けてみないか」と言われ、受けられるならぜひ!と思って受けました。一番大きかったのは、舞台で食べていきたいという思いが強くって、それはフリーではなかなか難しく、事務所に所属していた時期もあったんですけど、それだとスケジュールも拘束され自分の本当に好きな舞台をやれないこともあり、いろいろ悩んでいたんですね。その中で、こんにゃく座は自分の中でも楽しいと思えるし、可能性が広がっていて出会えてよかったな、と思いました。
■オペラ『想稿・銀河鉄道の夜』について
北野/宮澤賢治…、これが今まで本当に縁がなかったです。小中学校の時も教科書とかで読んだんでしょうけど、印象もほとんどなく、2010年の初演の時に初めて「銀河鉄道の夜」も読んだって感じなんです。読んだ時の印象は、あまりパッとしない、グレーとかアンバーな色のイメージ、暗い世界って感じでした。ところが、舞台に起こした時に、こんなにも色鮮やかな世界になるんだと思いました。
初演の時は、生徒役、大学士の助手、素粒子(コロス)役だったんですけど、大学士の助手は、好き勝手にやらせていただきました(笑)。素粒子は、ほとんど語りや歌があるわけでもなく、何の存在かわからないと言われ難しいと言われてましたが、ぼくはあまり抵抗がなかったですね。なんだかわからない存在をやるのはあまり違和感がなく割と好きなのかもしれません。素粒子は、ひたすら動いていたって記憶ですね。
―今回は、カムパネルラ役ですね!
北野/はい!カムパネルラ役となって改めて楽譜を見ると、こんなに歌っているんだ!と。もう、がんばらねば!です。カムパネルラって、つかみどころがなくって、でもそのわからない魅力を感じています。死んだ後にその思いを語る、語られなかったその言葉の力に惹かれるんです。その自分が感じた魅力をお客さんに届けるのが使命というか、そこにぼくの役割があるのかなと思います。そして、その魅力をピッタリと届けることができたら、ぼくの歌役者人生の中でもすごいことになるんじゃないかと!自分のように「銀河鉄道の夜」に興味のなかった人にぜひ観ていただき、楽しんでもらえるとうれしいです。命がけでやりますので!ぜひぼくのカムパネルラを観に来てください!!
(聞き手・忠地あずみ/こんにゃく座制作)