こんにゃく座と宮澤賢治
◆オペラ『想稿・銀河鉄道の夜』出演者インタビュー その7
2016-12-28
■こんにゃく座に入ったきっかけ
佐藤/僕は新潟出身で高校時代演劇部だったんだけど、部室にあった日経エンターテイメント別冊版に、「今注目の劇団」みたいな特集の中にこんにゃく座のオペラ『十二夜』(1991年「こんにゃく座の九月」)が写真いりで載っていて、その雑誌で目にしたのが最初。そこで初めてこんにゃく座の名前を知ったのかな。
とにかく映画が好きで、その世界に近づきたいと高校生の時は演劇部にはいり、新潟の演劇鑑賞会の会員にもなって、地人会とかこまつ座とか文学座とか…舞台もいろいろ見たんだ。とにかく田舎だと生の芝居を観る機会は本当になかったからね。
それで、高校生の時に某プロダクションがやっていたワークショップに参加したり、週末に自費で東京へ出て、映画の「ビー・バップ・ハイスクール4」の登校してくる生徒の役のエキストラをやったりと、俳優になりたいなぁとぼんやりと思っていて、その某プロダクションにはいろうかとも思った。でも、進路を考える時になってそのことは一度あきらめて、長岡の調理師学校にはいりました。料亭に住み込みで働きながら学校に通っていたんだけど、思うところもあり料亭は半年くらいでやめて、学校卒業後は実家を離れ、バイトしたりして、沖縄に1〜2カ月いたこともあったり、いろいろだったんだけど、一度あきらめた夢だったことを、やっぱり追いかけてみようと思い、覚悟決めて東京に出ることにしたんです!
ただ覚悟を決めたとは言え、貯えも必要だからと舞台に関わる仕事をしながら俳優を目指そうと照明会社に就職したんだ。その間ワークショップに参加したりしたけどあまり面白いと思えず、このまま照明の仕事にどっぷり入ってしまいそうになったのだが、このために東京に出てきたんではなかったはず!と思い返し、その会社を思い切って辞めました。ある程度貯えもできたし、まずは憧れだった吉祥寺に住もうと(笑)!
―(笑)吉祥寺か!さとちゃん、あきらめずに夢を実行してきているではないの!
佐藤/そう!芝居の街という意味で吉祥寺か下北沢か、で吉祥寺にね。どこかの劇団かプロダクションに所属するか…といろいろと探していた頃、たまたまバウスシアター(今は閉館されてしまった吉祥寺にあった伝説の映画館)で公演していた黒テントの「窓際のセロ弾きのゴーシュ」という舞台を観たんだよね。その中に俳優基礎学校の案内チラシがあって、ただの養成所というよりはその先の自分を見極める機会ということに惹かれてそこに入ることにした。そこに講師で来ていた大石さん(大石哲史)に出会ったんですね。
―初めて観たこんにゃく座の舞台はどの作品だったの?
佐藤/1994年の俳優座での歌芝居『魔法の笛』が初めて観たこんにゃく座の舞台だったんだけど、ビックリした!圧倒されて、ダーメのシーンが終わって思わず拍手していたね(笑)全然敷居が高くないオペラで、ものすごく動き回るし芝居も納得させながら歌もすごい!と思った。こんにゃく座のオペラってミュージカルと違って歌も客観的だし、でも芝居と歌が離れられないって感じで、高等なことしているなぁと思った。でもその時にはこんにゃく座にすぐ入りたいという勇気はなかったね。
その後、黒テントの俳優基礎学校も終了してどうしようかなと思っている頃、大石さんにこんにゃく座のオーデションを受けてみないかと声かけてもらった。大石さんのおかげで、全くの別世界の縁のないと思っていたオペラが少しだけ近くなっていたけど、あまり自信はなく、もうダメ元で落ちてもいいや、ということで受けて、入座となったのですね。
■宮澤賢治作品との出会い
佐藤/そうだな、アニメの映画は映画としていいなぁと思ったが、本としてはほとんど興味がなかったんだよね。入座したての頃はオペラ『セロ弾きのゴーシュ』の旅公演についていて、最初観た時は、あまり良さがわからなかった。お客さんの反応が良いと舞台も一緒に盛り上がり、ラストのシーンなんかものすごくいい感じで終われるんだけど、あんまりしっくりいかず学校公演でも子どもたちの反応があまりなかった時はちょっと難しいなと、公演ごとの観客の反応で結果がすごく違うなぁと感じた。高度だし、しぶい作品だなと思った。
その後「イーハトーブ大音楽会」(1996年こんにゃく座創立25周年記念公演第1弾・宮澤賢治生誕100年記念)で出演した時に、詩やソングやオペラの抜粋など宮澤賢治作品にたくさん取り組んで、なんて幅広いんだろうって思った。そういえば「大菩薩峠」を女装して歌ったんだった(笑)。
そしてオペラ『北守将軍と三人兄弟の医者』は、すごくエネルギッシュでパワーのある舞台で魅了された。人間の医者、動物の医者、植物の医者という発想が面白く、その時に少し宮澤賢治の思想みたいのを感じて、物語としてもどんどん興味が出てきた。
一番好きな賢治オペラは、オペラ『賢かった三人』(2000年「注文の多い歌劇場」)かな。発想力が広がっていて、ひとつひとつのエピソードが面白くって、オペラになった時により面白いって思った。怖いんだけど、観終わった後があっけらかんとした感じが不思議だなと。
ビデオでは、こんにゃく座の賢治オペラ全部も見てるかも(笑)
■オペラ『想稿・銀河鉄道の夜』について
佐藤/とにかく音楽がすごくいい!
初演の時は、車掌役だったんだけど、衣装のさばきがとっても大変だった(笑)。車掌の役はすごくやりたい役でアピールしてたくらいだったから、やれてすごく嬉しかった。不思議な存在だからミステリアスにやりたかったんだけど…。
―ちょっと、ミステリアスではなかったかな(笑)
佐藤/車掌役は、やりきれなかった感じだったんだけど、子ども(生徒)役がね、みんなと一緒にやっていて発見がたくさんあって良かった。ザネリのおつきの意地悪な子どもの役だったんだけど、派閥とかいじめとか子どもの頃ってそうだったな、とか思い出したりして。活版印刷所のところの振付とか印象的だしすごく楽しかった。
初演をやったことで「銀河鉄道の夜」の物語そのものについてもよく考えるようになったんだけど、カムパネルラのこととか、ジョバンニの境遇とか。ジョバンニは、カムパネルラがいたから学校での居場所があったって感じだったけど、カムパネルラの存在が大きくて、彼がいなくなってどうなっちゃうのかなと思ったね。でも、一緒に銀河鉄道の旅をしたことで、ジョバンニはこの先も生きていけるっていうのかな。あの二人の関係が大きいよね。
カムパネルラって、ジョバンニがこれ以上皆にいじめられないようにとあまり彼に構わずにいるのかな、とか、でもカムパネルラは他の子たちからも信頼されている存在だしもっと素直に子どもっぽくジョバンニに接していれば皆にも溶け込めたのかなとか。でもそれはカムパネルラの優しさだったのかな、とか。まあよく考える本当に大人な子だよね。
ジョバンニは、あの状況だと拗ねて心も荒んでいくだろうにと思うんだけど、素直で、逞しくって心がゆがんでいかない、あのジョバンニの感じが作品全体を暗すぎなくさせているんだな、とか思ったり。
二人の旅が、二人にとって大きいよね。死んでしまったカムパネルラの本当の心と、生きているジョバンニの肉体の奇跡的な旅なんだけど、この先も生きていくジョバンニにとってその旅はものすごい支えになるよね。
今回は、僕は「鳥捕り」の役なんだけど、大石さんにとっても、思い入れのある役だということも知っているし、初演の時もマンツーマンで鍋さん(川鍋節雄)とBスタでずっと稽古していたしね(笑)。鍋さんは自然で自由でとっても役にはまっていて、その同じ役をやるということは、ものすごいプレッシャーだな!と。
―今回、この作品はどこが見どころになるでしょうね。
佐藤/やっぱりうた、音楽でしょ!ピアノ、チェロ、クラリネットとうたのアンサンブルで、こんにゃく座の「銀河鉄道の夜」の世界が音楽で伝わるといいなぁと思う。「宇宙を旅する鉄道」という印象が強い作品だけど、具体的な鉄道とか出てこない。でも作品のテイストは音楽で実現できていると思うから。ひとつひとつのキャラクターやエピソードも際立だせられると面白いよね。会場も巻きこんで楽しみたいと思います!
(聞き手・忠地あずみ/こんにゃく座制作)