こんにゃく座と宮澤賢治

◆オペラ『グスコーブドリの伝記』出演者インタビュー その10 大石哲史 2016-09-14

大石哲史
大石哲史(おおいし・さとし)
1981年入座
京都府出身
京都市立芸術大学卒業

オペラ『グスコーブドリの伝記
父、ペンネンナーム技師、ブンブンゴンゴン 役

◆こんにゃく座に入ったきっかけ

大石/小学校高学年の頃から歌うことが好きだった。中1くらいでギターを弾き出して、フォークを歌っていた。高校の時は野球部だったんだけど、教室の隣が音楽室で、昼休みになると、お菓子を持って合唱部の勧誘に来るわけ。それについついつられて入部してしまって(笑)。一ヶ月くらい経った時に先生に「歌専門にやったらどう?」って言われて。それまではギター抱えてフォークしか歌ってなかったんだけど、そこからクラシックを知るようになって、のめり込んでいった。それで音大に進むことにした。
音大を卒業して、教員をやりながら、京都オペラグループで、『あまんじゃくとうりこひめ』とか、年に何回か学校公演もしていた。教師は5年間くらいやったかな。関西二期会にも所属していたんだけど、もう一回クラシックの勉強をしたいなと思って、芸大の大学院のオペラ科を受けて、実技は受かったんだけど学科で滑って(笑)。ちょうどその頃に、こんにゃく座が立て続けに関西公演をやって、それを観に行った。最初に観たのが『べっかんこ鬼』で、その後に『白墨の輪』。それでもう観た瞬間に、「やりたいのはこれだ」って思った。『べっかんこ鬼』では恵子さん(竹田恵子。元座員)の歌芝居が最高に素晴らしく、『白墨の輪』の音楽、ピアノが志村さん(志村泉さん)で、すごかった。このふたつの体験が強烈で。
京都オペラグループでも、関西二期会でもたまたま光さんのオペラを公演することがあったんだけど、どちらかの打ち上げに参加していた光さんに、「こんにゃく座に入りたい」と伝えて、そこからとんとん拍子に話が進んで、入座することになった。

─こんにゃく座でのデビュー作は?

大石/デビューは『べっかんこ鬼』の猟師役。ナベちゃん(川鍋節雄)が旅先で胃潰瘍で倒れてね。照明として旅についていってたんだけど、ナベちゃんが倒れたその晩に、バジ(佐山陽規さん。元座員)に、「お前が代わりをやるんだよ」って言われて。まぁ、照明をやりながら舞台はずっと見ていたから、だいたいは覚えているわけ。楽譜なんか持ってなかったんだけどね。その時ピアニストだった萩さんにつきあってもらって、必死で音取りして、なんとか本番には間に合わせた。それでね、これは有名な笑い話なんだけど、原作は東北のお話なのに、セリフの部分をもろに関西弁でしゃべってしまって(笑)。共演者たちは袖で大笑いだし、お客さんは、ぽかーんとしていたね。

◆宮澤賢治作品との出会い

─賢治の作品は、子どもの頃から読んでいた?

大石/中学二年の夏休みを、自分の中で“読書月間”と決めて、世界の名作を、それも大作ばかり読んだわけ。「白鯨」、「罪と罰」、「レ・ミゼラブル」、ダンテの「神曲」とか。日本文学からは、太宰治と宮澤賢治を選んで。賢治は「銀河鉄道の夜」を読んだんだけど、とにかくつまらなかったのね。つまらないというか意味がわからないというか。他に読んだ作品は、難解だとしても小説の形ができている作品が多かったんだけど、「銀河鉄道」は、賢治作品の中では、小説としての体をなしているほうだけれども、それでも中学二年の僕にはなんだかつまらなかった。それに対して太宰は、熱狂的におもしろかった。ま、男と女の機微っていうところがおもしろかったんだろうね、きっとね。それでその時の経験があったから、賢治はそれ以降こんにゃく座に入るまで、一切読まなかった。
それでも入座してからは、光さんが賢治好きだったこともあって、また読み出して。光さんと飲んだ時とかにね、賢治をどう読むか、みたいな話もした。具体的なことではなかったんだけど。『セロ弾きのゴーシュ』をやってからかな、好きになったのは。

◆オペラ『グスコーブドリの伝記』

─ブドリは、過去に読んでいた?

大石/読んでた。でも、あまり好きじゃなかった。好きじゃないっていうか、小説としてあまりにも出来ていないっていうか。
賢治は、形は書くし、精神を書くけれど、その人物がどういう人物かってことは、ほとんど書かないからね。『ゴーシュ』なんかは若干書いてあるように思うけれど。だからどういう人なのかっていうことがね、わからないんだよね。事柄しか書いてないような気がして。ま、変に書きすぎる作家よりかはいいのかもしれないけど、でも、それじゃつまらないじゃんって思う。つまり成長過程がなく、突然成長していたりするでしょ。幼少時期にブドリのような体験をしたら、普通グレるだろうと思うわけ。でも、賢治のなかにグレるとかそういうことがないんだろうなと思う。だいたい悪の道に落ちかけていってそこからどう生きて行くか、人間ドラマってわりとそういうことを書くじゃない。
ただ、いいなと思うところは、「なんで?」って考える余地があるってこと。なんでそうなったんだろうって。そういう良さはあるよね。
稽古場では、まどか(沖まどか)が演るブドリの妹のネリと、久ちゃん(佐藤久司)の一本気なところが、ブドリとあっていてなかなかいいなと思っている。
寺嶋くんが書くのに、「ブドリ」を選んだのは良かったと思う。なんでこの人がこうなったのかというところの音楽が、わりと丁寧に描かれているわけ。寺嶋くんは、そういう微妙なことを書くのが好きなんじゃないかな。そういう質が、ブドリが最後のほうで歌う長い歌に、良く出ていると思う。
それからしまさんが書いてくれた、おとなになったネリが病院のブドリに会いに来たときの、原作では地の文になっている部分を、東北の方言でしまさんがしゃべって、それを元に作曲した部分。あんなに見事に書かれた、方言の歌ってあまり聴いたことがない。結構緻密に書かれていて、あの歌はかなり良いなって思っている。

大石哲史
2015年 歌芝居『魔法の笛』パパゲーノ役

(聞き手・田上ナナ子/こんにゃく座制作)