こんにゃく座と宮澤賢治
◆初めての賢治オペラ『シグナルとシグナレス』(作曲・萩京子) 2016-06-08
─こんにゃく座ではよく“賢治オペラ”と呼んでいる、宮澤賢治原作のオペラについて、その第一作目の作曲者で、なおかつ、こんにゃく座で一番座歴の長い萩京子さんにお話を聞いていきたいと思います。
まず、第一回目は、こんにゃく座のはじめての賢治オペラ『シグナルとシグナレス』についてです。
このオペラ誕生のきっかけは?
萩/これはムジカ(※1)の夏の合宿講座の最終日で、何かやってほしいという依頼を受けたのがきっかけで、ソングを構成してやるのでもよかったんだけれど、せっかくだからオペラをつくっちゃおうって考えた。竹田恵子さん(元こんにゃく座歌役者。1974年〜2004年まで在籍し、現在は顧問)と、大石哲史さんと私の三人で、とにかく賢治のものをやろうってことはまず決めて、それからいろんな賢治作品を一緒に声に出して読んでみたりして探したのね。
その中で、抱腹絶倒だったわけ、「シグナルとシグナレス」は。とにかくおもしろくてしょうがなくて、これにしよう! ということになった。
─こんにゃく座の賢治オペラの特徴のひとつとして、賢治のことばをそのまま台本として作曲してオペラにしちゃう、ということがあるんだけど、「シグナルとシグナレス」についてもそうですよね。
萩/「シグナルとシグナレス」は文学としてそんなに洗練されていないような、ちょっとだらだらしているところもあるから、原作をそっくりそのままやるというふうにはいかなくて、かなり内容を削ったりもしている。
それからオペラとしての『シグナルとシグナレス』は、初演から再演へと公演を重ねていく中で変化していっていて、音楽部分が少しずつ書き足されていっているの。初演の時には私がピアノを弾いたから、楽譜には歌だけちゃんと書いて、伴奏を書ききれなくて、伴奏は譜面なしでやったなんて部分もあった。
─そうなんだ。では初演のものというのは本当に一回限りのものだったんだね。その時の映像とか録音とかってどこかにあるのかね。
萩京子
萩/ない(笑)。
─このオペラのおもしろさの要素である、恵子さんと大石さんが、役のうえで男女入れ替わって演じたり、オペラの中で役を奪い合う、みたいなことっていうのは、三人でつくりながら生まれていったこと?
萩/そうそう、作品探しで原作を声に出して読み合わせている時点で、この役をやりたい、とかっていうのがあって、そうやって楽しく読み合わせをした時の感じがオペラに生かされたわけ。最初から、役を固定して決めてやるのもおもしろくないし、最初から、男性である大石さんが女性のシグナレスをやることを自明の理としてすすめていっても、おもしろくないでしょ。
─シグナル役とシグナレス役は、何回も入れ替わるんだっけ?
萩/全体的に言うと、恵子さんっていう役がらが、「シグナルやりたい、でもシグナレスだってやりたい。後のものは全部あんたやんなさいよ」的なキャラクターで、大石さんっていう役がらが、最初はしぶしぶいろんなことをやりながら、でも、「シグナレスだけは!」ていうふうにぱっとシグナレスの部分を歌っちゃって、シグナレスの役を奪う、っていう感じ。
ただ、最後の夢の世界に行った時に、男女が逆のまんまだと、あまり音楽的にうまくいかない、ということがあって。そこにいたるまでは、男女逆転の様子もユーモアで攻められたけど、それこそ愛が成就するところの音楽でも男女がひっくりかえったまんまだとどうしてもうまくいかなくって、そこは男女を戻そうか、っていうことになった。
─「シグナルとシグナレス」の誕生が、それ以降の賢治オペラに、原作をそのまま作曲するっていう点において、大きな影響を与えたんだよね。
萩/そうだね。台本化するのではなく原作をそのままやる、っていうことで自由になれたっていうかな。
─萩さんにとって賢治の作品を作曲するっていうのは、どういう感じなの。
萩/賢治のことばは、リズムがおもしろくて独特のものがあって、目で読んでももちろんおもしろいんだけど、声に出すと、目で読んでいるだけでは味わえないものがそこからわき出てくる。それを、今度は作曲すると、更にまた別の言葉と、言葉の持つリズムのおもしろさが出て来るし、賢治の言葉と出会わなければ生み出され得ないメロディーを賢治のことばが引き出してくれる。これは、音楽になるためのことばとしてとても魅力的だし、作品として整っているものだけでなく、文学作品として整い得ていないようなものも含めて、たくさんの賢治作品がそういう魅力を持っているなって思っている。
※1…ムジカ音楽・教育・文化研究所のこと。
【オペラ『シグナルとシグナレス』関連商品】
CD「宮澤賢治★星めぐりの歌〜 竹田恵子」
こんにゃく座販売価格\3,000(税込)
詩/宮澤賢治 曲/林光、萩京子 うた/竹田恵子、大石哲史 ピアノ/寺嶋陸也、他
オペラ『シグナルとシグナレス』の他、「星めぐりの歌」(宮澤賢治)、「ポラーノの広場の歌」(林光)、「風がおもてで呼んでゐる」(萩京子)などを収録。
まず、第一回目は、こんにゃく座のはじめての賢治オペラ『シグナルとシグナレス』についてです。
このオペラ誕生のきっかけは?
萩/これはムジカ(※1)の夏の合宿講座の最終日で、何かやってほしいという依頼を受けたのがきっかけで、ソングを構成してやるのでもよかったんだけれど、せっかくだからオペラをつくっちゃおうって考えた。竹田恵子さん(元こんにゃく座歌役者。1974年〜2004年まで在籍し、現在は顧問)と、大石哲史さんと私の三人で、とにかく賢治のものをやろうってことはまず決めて、それからいろんな賢治作品を一緒に声に出して読んでみたりして探したのね。
その中で、抱腹絶倒だったわけ、「シグナルとシグナレス」は。とにかくおもしろくてしょうがなくて、これにしよう! ということになった。
─こんにゃく座の賢治オペラの特徴のひとつとして、賢治のことばをそのまま台本として作曲してオペラにしちゃう、ということがあるんだけど、「シグナルとシグナレス」についてもそうですよね。
萩/「シグナルとシグナレス」は文学としてそんなに洗練されていないような、ちょっとだらだらしているところもあるから、原作をそっくりそのままやるというふうにはいかなくて、かなり内容を削ったりもしている。
それからオペラとしての『シグナルとシグナレス』は、初演から再演へと公演を重ねていく中で変化していっていて、音楽部分が少しずつ書き足されていっているの。初演の時には私がピアノを弾いたから、楽譜には歌だけちゃんと書いて、伴奏を書ききれなくて、伴奏は譜面なしでやったなんて部分もあった。
─そうなんだ。では初演のものというのは本当に一回限りのものだったんだね。その時の映像とか録音とかってどこかにあるのかね。
萩京子
─このオペラのおもしろさの要素である、恵子さんと大石さんが、役のうえで男女入れ替わって演じたり、オペラの中で役を奪い合う、みたいなことっていうのは、三人でつくりながら生まれていったこと?
萩/そうそう、作品探しで原作を声に出して読み合わせている時点で、この役をやりたい、とかっていうのがあって、そうやって楽しく読み合わせをした時の感じがオペラに生かされたわけ。最初から、役を固定して決めてやるのもおもしろくないし、最初から、男性である大石さんが女性のシグナレスをやることを自明の理としてすすめていっても、おもしろくないでしょ。
─シグナル役とシグナレス役は、何回も入れ替わるんだっけ?
萩/全体的に言うと、恵子さんっていう役がらが、「シグナルやりたい、でもシグナレスだってやりたい。後のものは全部あんたやんなさいよ」的なキャラクターで、大石さんっていう役がらが、最初はしぶしぶいろんなことをやりながら、でも、「シグナレスだけは!」ていうふうにぱっとシグナレスの部分を歌っちゃって、シグナレスの役を奪う、っていう感じ。
ただ、最後の夢の世界に行った時に、男女が逆のまんまだと、あまり音楽的にうまくいかない、ということがあって。そこにいたるまでは、男女逆転の様子もユーモアで攻められたけど、それこそ愛が成就するところの音楽でも男女がひっくりかえったまんまだとどうしてもうまくいかなくって、そこは男女を戻そうか、っていうことになった。
─「シグナルとシグナレス」の誕生が、それ以降の賢治オペラに、原作をそのまま作曲するっていう点において、大きな影響を与えたんだよね。
萩/そうだね。台本化するのではなく原作をそのままやる、っていうことで自由になれたっていうかな。
─萩さんにとって賢治の作品を作曲するっていうのは、どういう感じなの。
萩/賢治のことばは、リズムがおもしろくて独特のものがあって、目で読んでももちろんおもしろいんだけど、声に出すと、目で読んでいるだけでは味わえないものがそこからわき出てくる。それを、今度は作曲すると、更にまた別の言葉と、言葉の持つリズムのおもしろさが出て来るし、賢治の言葉と出会わなければ生み出され得ないメロディーを賢治のことばが引き出してくれる。これは、音楽になるためのことばとしてとても魅力的だし、作品として整っているものだけでなく、文学作品として整い得ていないようなものも含めて、たくさんの賢治作品がそういう魅力を持っているなって思っている。
(聞き手・田上ナナ子/こんにゃく座制作)
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初演は、ホテルのラウンジ。
その後、賢治ゆかりの地・花巻でおこなわれる“賢治祭”に参加し、
屋外公演も経験しました。
舞台装置はほとんどなく、
生身の人間と音楽があれば上演できるこのオペラは、
こんにゃく座のオペラの精神を一番シンプルに体現し、
そしてこれから後に生まれる数々の賢治オペラの原型となりました。
初演は、ホテルのラウンジ。
その後、賢治ゆかりの地・花巻でおこなわれる“賢治祭”に参加し、
屋外公演も経験しました。
舞台装置はほとんどなく、
生身の人間と音楽があれば上演できるこのオペラは、
こんにゃく座のオペラの精神を一番シンプルに体現し、
そしてこれから後に生まれる数々の賢治オペラの原型となりました。
※1…ムジカ音楽・教育・文化研究所のこと。
【オペラ『シグナルとシグナレス』関連商品】
CD「宮澤賢治★星めぐりの歌〜 竹田恵子」
こんにゃく座販売価格\3,000(税込)
詩/宮澤賢治 曲/林光、萩京子 うた/竹田恵子、大石哲史 ピアノ/寺嶋陸也、他
オペラ『シグナルとシグナレス』の他、「星めぐりの歌」(宮澤賢治)、「ポラーノの広場の歌」(林光)、「風がおもてで呼んでゐる」(萩京子)などを収録。