◆No.1 劇作家・演出家 加藤直の仕事 2017-12-28
これまでたくさんのこんにゃく座オペラを演出いただいている劇作家・演出家である加藤直さん。長い長いおつきあいです。今回の喜歌劇『天国と地獄』は、台詞・訳詩・演出でお世話になります。
こんにゃく座の作品だけでも実にさまざまなものがありますが、演劇をはじめとして、ミュージカル、オペラ、合唱、ワークショップなどなど活動は、多様多彩!これまで生まれた作品の一部を紹介します。そしてこんにゃく座作品からは、稽古場での加藤直さんの貴重な写真、本番動画なども交えて紹介します。
加藤直・かとう ただし
*2013年林光歌劇場『セロ弾きのゴーシュ』稽古場より(撮影:姫田蘭)
劇作家。演出家。
神奈川県横浜市出身。上智大学外国語学部フランス語科中退。
1966年劇団俳優座付属養成所卒業。
1970年、「自由劇場」「六月劇場」「発見の会」の3劇団による連合組織「演劇センター68」を母体に発足した「68/71 黒色テント」(現・黒テント)創立に参加。1995年に退団まで、同劇団の座付き作家、演出家の一人として活躍しました。
こんにゃく座とも深いつながりのある劇団黒テントでの作品を当時のチラシとともに紹介します。
●黒テント
【第一期「真冬の商業演劇」(1971年〜1974年)】
黒テントを舞台に、3人の座付作家、佐藤信・山元清多・加藤直の作品を連続上演。サーカス・レビュー・大衆演劇など、それまでの「新劇」の舞台では観られなかったあらゆる演劇の娯楽的要素を取り入れながら、時代の先鋭的なテーマを展開する舞台が、学生を中心とする新しい観客層を開拓、支持を受ける。1971年に組織を改編し、活動をテント移動公演に集中。「黒色テント68/71」 と改称。(黒テントwebサイトより)
『翼を燃やす天使たちの舞踏』
1970年12/8〜17
1971年1/3〜12
会場:後楽園野球場
構成:佐藤信+山元清多+加藤直+斉藤憐 演出:佐藤信
出演:朝比奈尚行、石崎収、小篠一成、加藤直、金子研三、草野大悟、串田和美、斉藤晴彦、佐藤博、福原一臣、村松克己、新井純、桐谷夏子、吉田日出子、ほか。
‘これは4人の若い劇作家による、現代革命の社会学地理学神話楽。総勢30名の俳優たちが、黒色テントの内に外に、ミュージカル、サーカス、アジプロ、室内スポーツ、お祭り―そのどれでもあってどれでもない、躍動的な演劇空間をつくりだす’(チラシキャッチコピーより)
47年前のA4変形サイズのこのチラシのなんとカッコイイこと!!
加藤直さんは、役者として出演もしています。
68/71黒色テント5
『比置野(ピノッキオ)ジャンバラヤ』
1983年4/23〜25
会場:世田谷羽根木公園
作:山元清多 演出:加藤直 音楽:林光
台本は、こんにゃく座でも多くの作品の台本・演出でお世話になった山元清多さん。この作品で第27回岸田國士戯曲賞を受賞しています。そして、こんにゃく座座付作曲家・芸術監督であった林光もいくつもの黒テント作品に参加していますが、この作品の音楽も担当しています。今も、さまざまな作品の劇中歌をこんにゃく座歌役者が‘ソング’として歌っています。
68/71黒色テント6
『アメリカ』
1983年7/1〜10 会場:世田谷・羽根木公園
作:加藤直 演出:佐藤信 音楽:林光
‘黒色テントを船にすると言い残したまま、忽然と姿を消して早3ヶ月。時おり書留速達で、作業場に原稿が届く。差し出し場所もマチマチなら、速達の中身の方もそれに輪をかけた千差万化。負けるもんかと片っ端から稽古にかかって、どこがアタマであろうとシッポであろうと、真情あふるる「とんだり跳ねたり転んだりを目指して真っしぐら。’(黒テント評議会通信34号より)
68/71赤いキャバレー7
『宮沢賢治第貳旅行記』
1985年10/23、24 会場:部落解放センター
構成・演出:加藤直 音楽:林光、萩京子
「注文の多い料理店」「オツベルと象」「やまなし」といった賢治作品が、最小限の演出のなかで歌い語られるキャバレー形式の音楽劇で、音楽は、林光と萩京子が担当していました。移動公演で出演俳優のみで演奏可能なように、伴奏はアコーディオンとリコーダーで書かれているという「岩手軽便鉄道の一月」は、今でもこんにゃく座歌役者が歌っています。
黒テント第34回公演
『あちゃらか商人』
1994年4/14〜24 会場:下北沢・本多劇場
原作:W・シェイクスピア 演出:加藤直 台本:山元清多 音楽:林光
そして、1980年代中頃からは劇団(黒テント)外でも、オペラ、演劇、ロングランを重ねたエンターテイメント作品であるミュージカル、コンサート、合唱と多岐にわたる活動を開始します。
●ミュージカル
『イカれた主婦Angry Housewives』1988年〜1991年 演出:加藤直
出演:木の実ナナ、秋川リサ、森公美子、白木美貴子、ほか。
『ピーターパン』 1990年〜1997年 演出:加藤直
大手芸能プロダクション・ホリプロが制作を手掛けるブロードウェイミュージカル。日本で初のフライングのある上演は話題となり、継続的に夏に1ヶ月上演がされ、夏の風物詩となったこの舞台。こどもの頃夏休みに見に行った人も多いのではないでしょうか。会場は今はもう閉館となっている青山劇場。ちなみに、日本初演の1981年〜1987年の演出は、こんにゃく座でも『ねこのくにのおきゃくさま』台本・演出でお世話になっている福田善之さん。主演のピーター・パン役は、榊原郁恵さんが演じていました。
沢田研二 音楽劇『ACT』 1989年〜1998年 演出:加藤直
1人の人物の人生をほぼ1人芝居で、沢田研二さん(ジュリー)が演じる、歌あり、お芝居ありの伝説の舞台。
シェイクスピア、宮沢賢治、プレスリー、エディット・ピアフ、サルバドール・ダリ、ニーノ・ロータなど、個性的な役柄を演じていました。ちなみに、この10年間、萩京子は音楽スタッフとして関わり、ジュリーの歌唱指導を務めました。
こんにゃく座の歌役者が‘ソング’として歌っている「原子爆弾のジャヴァ」や「脱走兵」(作詞:ボリス・ヴィアン、日本語訳:加藤直)もここで歌われています。
●オペラ
1986年には
『天国と地獄 地獄のオルフェウス』(室内歌劇場 会場:青山スパイラルホール)公演の演出を手掛けています。その他、オペラ作品の演出としては、主に以下の作品があります。
『モモ』『ひかりごけ』『白墨の輪』(神奈川芸術文化財団)
『こびと〜王女様の誕生日〜』(びわ湖ホール)
『罪と罰』(新国立劇場)
『真夏の夜の夢』『こうもり』(二期会)
『羅生門』(日本初演・日生劇場)
『声』『マノンの肖像』(東京室内歌劇場)
など。
●合唱
ただ突っ立って歌うのでなく、動きを伴い、舞台や客席をめいっぱい使うなど演劇的手法も取り入れた合唱の枠を超える新しい舞台芸術としての「合唱オペラ」。特に栗友会での新作委嘱作品の作・演出を多く手掛けています。林光の作曲作品も多く、近年では寺嶋陸也さんの作曲作品も上演されています。
〇栗友会
栗山文昭を音楽監督兼指揮者とする4つの混声合唱団(宇都宮室内合唱団ジンガメル、合唱団響、コーロ・カロス、Youth Choir Aldebaran)と、6つの女声合唱団(女声合唱団青い鳥、松本女声アンサンブルAZ、合唱団るふらん、女声合唱団彩、女声合唱団九月の風、うつのみやレディーシンガーズ晶<AKIRA>)と、2つの男声合唱団(Tokyo male choir KuuKai、宇都宮おとこコーラス粋狂座)で構成。各団は定期演奏会、演奏旅行、レコーディングなどを行いながら<栗友会>としても活動している。
・1997年
『ヴィヨン・笑う中世』 作曲:林光 作・演出:加藤直
・1997年
『戒厳令−アジアン・コミックス−』 作曲:林光 作・演出:加藤直
・2002年
『冬のオペラ・大正25年の』 作曲:林光 作・演出:加藤直
・2010年
『るふらん 25歳 〜あのときの手紙〜』 構成・台本・演出:加藤直
・2011年
『アシタ ノ キョウカ ―― 泉鏡花に歌う』 作曲:林光 作・演出:加藤直
・2012年
『コエ カラダU「echo・海の少女」−林光さんへ−』 作曲:寺嶋陸也 作・演出:加藤直(シュペルヴィエル「海に住む少女」より)
・2016年
『そして旅にでた―モノガタリとコエカラダと』 作曲:寺嶋陸也 作・演出:加藤直
*『そして旅にでた―モノガタリとコエカラダと』より(撮影:渡辺力)
〇「合唱団じゃがいも」
宮澤賢治作品の「合唱劇」の創作初演も多く取り組んでいる山形の混声合唱団。家族ぐるみで参加している団員も多く、一緒に歌える合唱作品が少ないことから、委嘱することでそのような曲をみずから増やしている。林光、萩京子、吉川和夫の作曲による作品も多く生まれている。委嘱初演作品の演出、構成の多くを手掛けています。
・2004年
イーハトーボ野外劇場 宮澤賢治詩集 (委嘱初演) 作曲:林光 演出:加藤直
・2010年
合唱劇『なめとこ山の熊』(委嘱初演)作曲:林光 演出:加藤直
・2006年
音楽劇『革トランク・賢治の東京』(委嘱初演)作曲:林光 演出:加藤直
など。
*合唱劇『なめとこ山の熊』より
いくつかの大学でも指導にあたっています。1994年〜1997年、東京芸術大学オペラ科講師。2002年4月〜2003年、早稲田大学理工学部講師。2004年4月から日本大学芸術学部演劇学科非常勤講師。
そのほか、
1996年(財)神奈川県芸術文化財団演劇部門プロデューサー、かながわ舞台芸術工房総合プロデューサー(〜2004年3月)。1997年より、沖縄を拠点に若い世代とのワークショップや、沖縄芝居、沖縄音楽の異彩なアーティストたちとの交流も新たなライフワークとして加わり、さまざまな実験的試みをおこなっています。
現在、長野県松本市のまつもと市民芸術館を拠点に、市民がワークショップから作品発表まで、様々な舞台ジャンルの講師や専門家と共に、劇場表現を生み出す市民参加プロジェクト「まつもと演劇工場(シアターファクトリー)』の工場長を務める。
●まつもと市民芸術館まつもと演劇工場
まつもと演劇工場5期生・作品『ケンジ旅行記ー道々の劇場ー』
2017年3月 原作:宮沢賢治 構成・演出:加藤 直 監修:串田和美 音楽:萩 京子
*『ケンジ旅行記 ―道々の劇場―』より(撮影:山田 毅)
そして、今年度の発表作品はこちら!林光、萩京子の音楽、こんにゃく座オペラでもいつもお世話になっているスタッフプランナーの皆さま参加の作品です。
まつもと演劇工場6期生・作品『ミステリヤ・ブッフ』2018年3/17(土)、18(日)
作:ウラジーミル・マヤコフスキー 構成・演出:加藤 直 監修:串田和美
音楽:林 光、萩 京子 美術:島 次郎 照明:成瀬一裕 音響:久保田 肇 衣裳:太田雅公
振付:山田うん
●オペラシアターこんにゃく座
林光、そしてこんにゃく座との共同作業の歴史は長く、1983年『あべこぶらツウィスト』から2018年『天国と地獄』まで、これまで数多くの作品の台本や演出を担当。〈音楽〉と〈演劇〉の創造的な融合、ひとつの役柄をひとりの役者が固定的に演ずるのではなく、出演者全員が一体となって〈物語る〉、またはひとりの役者がいくつもの役を渡りながら〈物語る〉、今は当たり前のように演じ、語り、歌う、こんにゃく座・オペラの骨格となるものを共に創ってきたと言えるでしょう。これまで生まれたオペラは17作品!写真と動画で紹介します。
*オペラシアターこんにゃく座公演:『十二夜』(2002年)、『フィガロの結婚』(2006年)、『耕耘部の時計』(2005年)、『月の民』(1998年)、『ゴーゴリのハナ』(2011年)より。
@ 1983年
『あべこぶらツウィスト』 台本・演出:加藤直 作曲:萩京子
*『あべこぶらツウィスト』より [40周年誌より 萩京子]
初めての書下ろし台本を手にした喜びで、元気いっぱいの作曲である。当時こんにゃく座は宙ぶらりんの状態のなか、細々と活動を続けていた。しかしその時期に加藤さんとの出会いがあり、新宿モーツァルトサロンで『あべこぶら』を含む「オペラ市」公演をおこなったことが翌年の『フィガロの結婚』上演へと繋がっていく。『あべこぶら』はその後の加藤直+こんにゃく座の協働への端緒となった作品であり、マニフェスト的な作品と言える。
A 1984年
『フィガロの結婚或いは狂おしき一日』 原作:ボーマルシェ 作曲:モーツァルト、林光 訳・演出:加藤直
1987年新演出 2003年新演出(赤黒)
2006年新演出(〜モーツァルト・エキゾチカ〜)
B 1985年
『オオカミは走る』 原作:三田村信行 台本・演出:加藤直 作曲:萩京子
*『オオカミは走る』より
C 1986年
『セロ弾きのゴーシュ』 原作:宮沢賢治 台本・作曲:林光 演出:加藤直
1999年フランス・アヴィニヨン演劇祭
2003年アジアツアー(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)
2007年新演出
D 1989年
『十二夜』 原作:シェイクスピア 台本・作曲:林光+萩京子 演出:加藤直
2002年改訂版
E 1990年
『ハムレットの時間』 原作:シェイクスピア 台本・演出:加藤直 作曲:林光+萩京子
*1990年『ハムレットの時間』稽古場より
*おぺら小屋座談会 林光、萩京子とともに
F 1994年
『魔法の笛』 作曲:モーツァルト、林光 台詞・構成・演出:加藤直
1999年新演出
2015年新演出
*1994年『魔法の笛』稽古場より
G 1996年
『夏の夜の夢』 原作:シェイクスピア 台本・演出:加藤直 作曲:林光+萩京子
H 1998年
『吾輩は猫である』 原作:夏目漱石 台本・作曲:林光 演出:加藤直
2014年新演出「林光歌劇場」
I 1998年
『月の民』 台本・演出:加藤直 作曲:萩京子
*『月の民』より(撮影:志賀伸子)
J 2004年
『花のラ・マンチャ騎士道 あるいはドン・キホーテ最後の冒険』 原作:セルバンテス 台本:山元清多 作曲:林光 演出:加藤直
K 2005年
「宮澤賢治歌劇場X」『鹿踊りのはじまり』『耕耘部の時計』原作:宮沢賢治 台本・作曲:林光 演出:加藤直
L 2006年
『ロミオとジュリエット・瓦礫のなかの』原作:シェイクスピア 作曲:林光 台本:山元清多 演出:加藤直
M 2007年
『まっぷたつの子爵』原作:カルヴィーノ 台本・詞・演出:加藤直 作曲:林光、萩京子、吉川和夫、寺嶋陸也
*『まっぷたつの子爵』より(撮影:青木司)
N 2010年
『三文オペラ』原作:B・ブレヒト 作曲:K・ワイル 訳・演出:加藤直
*『三文オペラ』より(撮影:青木司)
O 2011年
『ゴーゴリのハナ』原作:ゴーゴリ 台本・演出:加藤直 作曲:萩京子
P 2013年
『アルレッキーノ‐二人の主人を一度に持つと‐』原作:ゴルドーニ 台本・演出:加藤直 作曲:萩京子
*2013年『アルレッキーノ』稽古場より(撮影:姫田蘭)
*2015年『魔法の笛』稽古場より(撮影:姫田蘭)
加藤直さんの台本は、今も手書きです。踊るような文字は、原稿用紙からはみ出そうだったり、あっちにもこっちにも飛んで行きそうだったり、しかし、恐ろしくキッチリ収まっていたり…。この文字から、もう加藤直・演出オペラが始まっているのだと思います。
2018年2月の喜歌劇『天国と地獄』は、こんにゃく座との18作目の新しいオペラ。
オペレッタの古典に、加藤直の言葉とともに‘いま’のこんにゃく座が全力で挑みます!どうぞご期待ください!!
*『天国と地獄』こんにゃく座版 加藤直・手書き原稿