オペラ『森は生きている』新演出・オーケストラ版 特集ページ
インタビューVol.1
寺嶋陸也〈作曲家/ピアニスト/指揮者〉

オペラ『森は生きている』新演出・オーケストラ版公演で オーケストラ〈アンサンブル フォレ〉の指揮をしてくださる寺嶋陸也さんに、 林光さんとの出会いをはじめ、 オペラ『森は生きている』の音楽の魅力について お話ししていただきました。

――作曲家、林光さんと初めて出会った時のことを教えて頂けますか?どんな印象だったのでしょうか?
初めて出会ったのは、中学生の頃ですね。こんにゃく座の楽屋を訪ねて行ったんですよ。
ぼくが小学校の時に見てもらっていた作曲の安達元彦先生が連れて行ってくれて、それが「もうすぐ10周年」という時のコンサートでした。

――もうすぐこんにゃく座が50周年なので、今から40年前ですね。
ちょうど40年前になるというわけですね。
作曲の先生を探していたんですけど、その頃レッスンとかそういうことは、光さんはなさっていなくて、「まぁ、時々遊びにいらっしゃい」と言ってくださったんですね。

それで時々作った曲を持って遊びに行って、でも曲のことはあまり言ってくださらなくて(笑)、四方山話をして帰ってました。

最初の頃は随分ゆっくり話す人だなぁと思ったんですけど。
でもその印象はあとから考えると間違っていて。結構早口ですね。

――最初はセーブしてたんでしょうか(笑)。
人見知りをしていたんですかね。子ども相手に人見知りをするというのも変だけど(笑)。

――四方山ばなしはどんな話を?
作曲でやっていこうとなったときに、じゃあピアノは続けていった方がいいのかとか、そんなことを相談したり、あと良く楽譜を貸してくれたり、いろんな現代音楽の話を聞かせてくれましたね。

そのうち、光さんの出演する演奏会に行ったり、映画の録音を見せてもらったりとか、こんにゃく座の稽古やゲネプロを見せてもらったりしてました。

――1992年オペラ『森は生きている』の初演の際、寺嶋さんにピアニストとして出演して頂きましたが、当時のことなどを聞かせいただけますか?
「森は生きている」の最初の合唱が来たときは、驚きましたね。みんな驚きましたけど。



1992年初演時(左より:林光、岡村春彦)
まぁ、本当にグランドオペラみたいな始まり方のような感じでしたね。
それまでの光さんの曲とはちがって、随所にオーケストラの響きをイメージさせるところがたくさんあるので、これはいつかオーケストラでやりたいなぁと初演の時に思いました。演出の岡村さんもそう言ってましたね。

――ピアノの音の数がすごいですよね。
だから弾くのがすごく大変で。「森は生きている」の旅は手が痛くなります(笑)。
(演奏が)長いこともあって、けっこうつらかった(笑)。「ゴーシュ」※1もけっこうハードなんですけど、「ゴーシュ」よりずっと長いし、それとわりと大勢で歌うところが多くて、音量的にも大変でした。

ただ「吾輩」※2とか「イヌの仇討」※3のような音の難しさはないんですけどね。

――子どものためのお芝居として「森は生きている」が劇団俳優座によって日本で初めて上演されたのは1954年。その劇中歌を作曲されたのが、当時22歳の林光さんでした。それから約67年が経ちますが、この作品は世代を超えて観続けられています。これほど人々に愛され、観続けられている理由はどんなところだと思いますか。


1992年初演より
大人にしろ、子どもにしろ、誰もが劇の中に感情移入が出来る、自分を重ねて観ることが出来るところでしょうか。いろんな立場の人が出てくるので、そういう部分が大きいと思います。

それから、これはオペラ版にしろ、演劇版にしろ、歌の持っている魅力というのがすごく良い形で出てきていて、音楽がやっぱり飽きないですよね。 林光さんの作曲の素晴らしいところですけれども、なんかこう押しつけがましくなくて。
でまた、10歳の時に観た時と30歳に観た時と、 60歳の時に観た時と、それぞれ違う受け取り方ができる、劇そのものもそうだし、
光さんの音楽もそういう面があるからだと思いますね。
あとは、こんにゃく座でも他の団体もそうですけど、どんどん新しいことに飛びついてやっていくのではなくて、昔作られたものをあたためて続けていこうという劇団の力というのも大きいと思います。

――2001年、2003年のオペラ『森は生きている』のオーケストラ版ではピアニストとして、2005年の時は指揮者として出演して頂きました。オーケストラ版ならではの聴きどころを教えてもらえますか。
一番はいろんな音色が聴こえるっていう、その多彩さですね。それが何といっても違うと思います。
たとえば、管楽器がそれぞれ1本づつ(フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット)入っていてメロディーを弾くわけなので、ピアノだけでは出せない表情がありますし、色彩的になりますね。

その代わり、こんにゃく座の人たちは、オーケストラで歌うことには慣れていないので、合わせるのはなかなか大変ですね。ピアノとは聴こえ方が全然違うので、(歌い手は)普段聴こえる音が聞こえなかったりということがたくさんでてくるんですよね。
弦楽器は音が立ち上がってくるスピードがピアノとは違ったりしますし、そこは稽古が必要なところですね。

――林光さんが2012年に亡くなられてから、林さんの仕事の一部を担われていますが、その活動をとおして感じることや、林光さんに影響を受けたことを教えてください。
光さんが作る曲そのものからの影響はとくに学生のころは受けていたんですが、
ずっとそばで仕事を見させていただいて、やっぱり一番強く感じたのは思想的なことですね。 作曲ということをとおして、どう社会と関わるかという、そういった影響が大きいと思います。

――林さんは言葉ではあまりおっしゃらないような気がするのですが。
でもね、著作物、本が10数冊かありますからね。
あとは音楽教育の会の会報とかに書いてらっしゃったりとか。
晩年にはご自身のホームページにブログなような記事を書いていらっしゃいましたね。
公式的な書き方ではないですけど、結構おもしろくそういうものを読んでいました。

あとはどんな風に出来事を見ているのかなぁと、すごく気になっていました。
光さんが亡くなってからも、光さんならどう考えたんだろうなぁ、ということは折に触れて思いますね。

――最後にオペラ『森は生きている』新演出オーケストラ版公演を心待ちにしてくださっている方たちに、メッセージをお願いします。
観に来る方にとって生の舞台に接するということは大きな喜びだと思いますが、演じている(演奏している)側もとにかくお客さんの前でそれを見てもらう、聴いてもらうということが何よりも大きな喜びだということを今回のこと(活動を自粛せざるを得ない状況)で本当に痛感しました。
お客を入れずに配信というのもいろいろ進んでいますけれども、やっぱり人が集まって、そこで一緒に同じ空間で過ごすってことがないと劇場とは言えないと思います。
何とかそう出来るように頑張っていますので、どうか観に来てていただきたいと思います。

林光さんの仕事を同じ作曲家として30年以上も間近で見てきた寺嶋陸也さん。
その寺嶋さん指揮による上演を、ぜひ会場で体感していただきたいと思います。
16年ぶりのオーケストラ版、オペラ『森は生きている』新演出公演をどうぞお見逃しなく!


寺嶋陸也プロフィール

※1 林光作曲、オペラ『セロ弾きのゴーシュ』のこと。〈1986年初演〉
※2 同上、オペラ『吾輩は猫である』のこと。〈1998年初演〉
※3 同上、オペラ『イヌの仇討あるいは吉良の決断』〈2002年初演〉


(聞き手)湯本真紀 高橋志野/こんにゃく座制作
2020年12月 溝の口にて