こんにゃく座と宮澤賢治
◆オペラ『グスコーブドリの伝記』出演者インタビュー その6 沖まどか 2016-08-17
◆こんにゃく座に入ったきっかけ
沖/こどもの頃から歌うことは好きで、母が芝居とかミュージカルによく連れていってくれて、行く時は必ず車の中で、自分たちも一緒に歌いながら行ってました。それから、通っていた幼稚園でも歌う機会がたくさんあって、歌うことは特別なことではなく日常的なことでした。
それで、中学、高校とも演劇部に入って、より観るのも演るのも身近なことになっていったんです。受験で大学を選ぶ時に、何をやりたいかって思っても、演劇かミュージカルくらいしか考えられなくって。でも演劇を学べる学校も、ミュージカルを学べる学校も、なんか思い描いているのと少し違うんだよな、って思って、好きな歌を学べる大学にしたんです。歌のレッスンは、受験のために少し通ったくらいです。
─歌を職業にするっていうようなイメージはあったの。
沖/思ってなかったんです。まったく。
大学時代は、自分たちでミュージカルを企画して照明も装置も考えてやったりとか、先輩のオペラの授業の時に、照明を手伝ったり、そういうことが楽しくって。だから、最終的に就職は、舞台をつくる仕事がしたいな、っていうことをずっと思ってたんです。
─それは演じる側ではなく、スタッフとして。
沖/そうそう。というか、スタッフとしてしか考えていなかったんですよね。どうせ歌は劣等生だし、自分の好きな歌い方しかできないと思っていたから。
でも、クラスの担任の先生が、こまさん(西川まゆみ。元座員)を知っていて、「ぴったりだと思うんだけど、沖さんに」っていって、こんにゃく座を紹介されて。その先生は大石さんとも昔仕事をしたことがあったみたいで、それで広島でやった『森は生きている』をわざわざ観に行ったんです。それでその時に、「あ、いいな」と思って。こんな私で入れるなら入りたいな、て思った。
基本的に自分が舞台に立つ、というのは、本音ではやりたいと思いながらも、どこかで自分にはそんな才能はない、って思って諦めていたから…。っていう今なんです。
◆宮澤賢治作品との出会い
─賢治作品との出会いは。
沖/私、昔から朗読とかそういうのも好きだったんですよ。昔はニュースキャスターになりたいって思っていた時があったり、科学館にテレビ局のスタジオ体験コーナーがあって、天気予報とか、声優の体験ができるんだけど、すごい興味があって。自分の声を使うのが好きなんですね。
それで大学の授業でも、宮澤賢治の「よだかの星」を題材に、朗読したりとか、研究するという講義があって、いろんな学科の人たちと一緒にやるやつなんですけど、それをとったんですよね。明確にはっきりとした理由があるわけではないんですけど、なんとなく宮澤賢治が気に掛かるというか、親しみがあるっていう気がしていて。何人かのグループにわかれて「よだかの星」をやってみる、ていうことだったんですけど、それが自分から選んでちゃんと宮澤賢治に出会った、っていうものだと思う。
小学校の教科書に載っていたから「注文の多い料理店」は読んだりしてはいるんだけど、自分から積極的に取り組んだ最初は、大学時代の「よだかの星」だった。
─賢治は好きですか。
沖/うん。「宮澤賢治」って書いてあるだけで、何かひっかかるというか、気になる。
講義の時もレジュメにいっぱいいろんな講義のことが書いてあるその中に、パッと宮澤賢治って書いてあるだけで、ふと気になるのです。
だからといって賢治の作品を読んだことがあるかっていったら、教科書の「注文〜」程度なんです。作品も詳しいわけじゃないし、人となりについて詳しいわけでもないし。でも、その名前が出てくると気になるっていう。
◆オペラ『グスコーブドリの伝記』
─「グスコーブドリの伝記」は読んでみてどうだった。
沖/なんか色でいうと茶色い感じがした。ちゃんと農民の世界を知っている賢治が、農業のことを描いてるんだなって感じがすごいして、なんか、茶色いというイメージがある。
ブドリが出会う人出会う人がみんなちょっとずつヘンでしょ。そういういろいろな登場人物に出会えるのがおもしろいな、と思う。いま実際稽古場で出演者がその役を演じているのをみると、それぞれの個性が際立って。ブドリはとってもまっとうな人だから、まわりがヘンなのがよけいおもしろい。
原作を読んだ時に、最初何を言いたいのかよくわからない部分があったんだけど、稽古で何度も何度も繰り返し場面をやって、音楽も、最初出てきた時はよくわからなかったけれども、みんながそれを歌いこなしていくようになっていくと、物語がわかりやすくなって、すんなり、おもしろいものとして伝わってくるようになってきた。
それで、寺さん(寺嶋陸也さん)の音楽がすごいんですよ。とにかくキラッキラッしてる。もっと難しい音楽だと思っていたんだけど、私はそんなに歌いにくくはないんです。しかもね、鳥のさえずりとかね、聞こえてくるんですよ。音楽から。溶岩が流れていて、きっと一瞬綺麗に見えてきらきらしたんじゃないかな、とか、そういうことが音楽に描かれていて、すごい。楽士のお二人はすごく大変だと思うけど、
最初の頃のブドリはあまりしゃべらないんだけど、受け身なブドリがまわりに翻弄される感じがとてもよくわかって、だからイーハトーブについた後、ブドリがしゃべり始めると、そのことによってブドリの成長が見える気がする。
久さんのブドリは、やっぱり賢治と同じ東北の血があるっていうのがいいのかもしれないけど、とにかくすごくかっこいい。
ブドリが決意して、「じゃあ、わたしがいきます」っていう瞬間がすごいんですよ。そのことは私が演じる妹としては、けっこうショックなことで。ブドリの切実なまなざしで、うっと苦しくなってしまう。いっぱい苦労して、でも本当に人のことを思って、そんなことをできる人って、すごいなって思うんです。
(聞き手・田上ナナ子/こんにゃく座制作)