こんにゃく座と宮澤賢治

◆そして新作オペラ『グスコーブドリの伝記』について(作曲・寺嶋陸也) 2016-07-06


─そしていよいよ『グスコーブドリの伝記』のことになります。作曲家の寺嶋陸也さん書き下ろしの新作です。まず、こんにゃく座と寺嶋陸也さんとの出会いというのは。

/寺嶋くんは、安達元彦さんという作曲家を通じて、高校生の頃から光さんとも面識があって、それこそ私が1980年に初めてこんにゃく座で書いたオペラ『なにもないねこ』の舞台稽古なんかも見に来ていたんだって、ずいぶん後になってから聞いた。

『セロ弾きのゴーシュ』初演(1986年)パンフレットより。寺嶋陸也さん
それで1984年に『フィガロの結婚 或いは狂おしき一日』を公演する時に、編曲をすることになって、何人かで編曲チームを作ったんだけど、光さんが「寺嶋っていうのが芸大に入っているから、編曲させよう」て言って、加わってもらったの。その時の楽譜のやりとりは郵便だったと思う。それがこんにゃく座に関わってもらった最初で、その翌々年1986年の『セロ弾きのゴーシュ』で、今度はピアノを弾かせてみよう、てことになって、ピアニストとして出演してもらうことになったわけ。芸大(東京芸術大学)っていうのは、学外で演奏することがいろいろやっかいでさ、私なんかも在学中にトラブったことがあり、光さんもいろいろあったらしくて最終的には中退しちゃうんだけど、それですごく寺嶋くんのことは気をつかって、師匠の間宮芳生さんに「こんにゃく座でピアノを弾くことは大変勉強に役立つ」みたいなことを言ってもらって、そういうお墨付きもいただいて、『ゴーシュ』の初演ピアニストとして参加してもらった。


『セロ弾きのゴーシュ』初演カーテンコール。左から二人目が寺嶋さん

実は寺嶋くんが芸大の1年の時に私は芸大でソルフェージュを教えていて、寺嶋くんは私のクラスじゃなかったんだけど、私が試験問題を作った時があってね、その試験が「難しかった、難しかった、ひどい」とかって、いまでも言われる(笑)。

─ピアニストとして、1986年から、最近だと今年(2016年)2月の『Opera club Macbeth』まで、30年間に渡ってこんにゃく座のオペラに出演してもらっているわけだね。
萩さんとの関係で言うと、緋国民楽派という作曲家のグループを、吉川和夫さんと3人でつくっています。


1999年頃の緋国民楽派。左から、寺嶋さん、吉川和夫さん、萩京子

/1987年に「緋国民楽派」という作曲家のグループを結成した。当時寺嶋くんはまだ大学生だったけれど、吉川さんと寺嶋くんは間宮さんの門下っていうことでつながりもあって。
いわゆる普通の作曲家の作品の会っていうのはそんなにおもしろくないものが多いので、毎回三人でテーマを持って、聴きに来てもらう人にとってもおもしろい音楽会作りをしましょう、ていうことで始めました。細々と続いています。作曲家のグループなんてたいていすぐ解散しちゃうんだけど、えらいでしょ。
今月(7月)23日(土)に、第14回の演奏会(※1)があります。

─ピアニスト以外でのこんにゃく座との関わりは、作曲家として、それから指揮者として、というのがあって、1995年に寺嶋さん作曲のオペラ『ガリレイの生涯』をこんにゃく座で公演し、2007年のオペラ『まっぷたつの子爵』(イタロ・カルヴィーノ原作)で、林さん、萩さん、吉川さんと寺嶋さんで4人で共同作曲してもらいましたね。それから、2005年の瀬久男さん演出版のオペラ『森は生きている』オーケストラ版で指揮をしてもらった。
最近では、昨年2月に公演した『白墨の輪』の編曲にも携わってもらいました。

/『ガリレイの生涯』は、寺嶋くんの大学院修了作品。ブレヒトのものだし、それまでブレヒトのオペラは日本では光さんの『白墨の輪』しかないと思う。だから、たぶん日本で二作目であろうブレヒト・オペラは、ぜひこんにゃく座でやりましょうよということで1995年にやることになった。大編成ではないけれどもこんにゃく座にとっては大編成の16人編成のオーケストラでやりたいということやら、音の難しさやらがあったけどね。この公演では、寺嶋くんが指揮をして、チェンバロも弾いて。寺嶋くんが全身全霊で作曲したものだから、とにかく私たちも立ち向かうぞ! という気持ちでやった感じだった。手応えは充分あったと思っている。今はサントリーホールなどでさかんにやられている舞台上にオーケストラを乗っけて上演するやり方のハシリだったかも。


『ガリレイの生涯』舞台写真。左側後ろ姿が指揮をする寺嶋さん

それから『まっぷたつの子爵』は、4人の作曲家で共同作曲した。すごくおもしろくってね。また4人の共同作曲をやろうという動きもあったんだけど、題材や台本作家、演出家がすんなり行かないところがあって、2作目が実現できないうちに、光さんは亡くなられてしまった。
『森〜』の時の指揮者としての寺嶋くんは、わけのわかんないことを言う指揮者じゃなくって(笑)、具体的なことを的確に言う指揮者で、ちゃんとした芸術性を持ち、かつ職人としてのわざも持った音楽家だと強く感じた。

─そしてそして今回、新作を寺嶋さんに、ということになりました。

/そう。新作を書いてもらうまでに時間かけすぎだよね。
やっぱり『ガリレイ〜』がすごく特殊というか大物だったから、こんにゃく座にとって大変だったこともあって、じゃすぐ次に何かを、ということに繋がらなかったんだね。
そして90年代から2000年代はこんにゃく座も、林、萩作品に勢いがあって、やりたいものもいっぱいあって、それが立てこんでいたってことがあったよね。そうこうしているうちに寺嶋くんにどんどん合唱とかの仕事が増えていって、なかなか良いタイミングがなかったんだな。

─題材の「グスコーブドリの伝記」は、寺嶋さんに新作を書いてください、と言った時に、寺嶋さんのほうから提案されたのでしたね。

/そう、寺嶋くんは「グスコーブドリの伝記」やりたいって、20年くらい前から言ってたね。今回はじめて聞いたわけじゃなくって。
光さんは、「寺嶋はブドリが書きたいらしい。変わってるね」とか言ってたけど、そんなふうに言うときって、ご自分でも書きたかったのかもって思う。
賢治オペラはこんにゃく座の作品群のなかでも重要なポジションだし、そこに寺嶋作品が加わるのはとても良いと思う。

─現在、寺嶋さんは鋭意作曲中でいらっしゃるわけですが、どんなところが楽しみ? 今回はキャスティングの段階にも関わってもらって、萩さんほどではないにしろ、こんにゃく座の役者たちのことも、ある程度知っているわけだしね。

/キャスティングはすごくおもしろく決まった。
寺嶋くんは、ピアニストとしてとても貴重な存在であり、器楽の作曲の仕事もたくさん委嘱を受けてしていて、合唱曲もたくさん書くし、音楽家としての地盤を広げていまに至っているわけだよね。寺嶋くんの若いころの書きっぷりっていうのがあって、『ガリレイ〜』はまさにそれで、すごくエネルギーがあったし、こんにゃく座は、必死にそれに立ち向かった。それからの20年以上の時間のなかで、いろいろな書き方を経験してきているから『ブドリ』でどんな「歌」を書いてくれるのか楽しみ。それに、30年間こんにゃく座でピアノを弾いて、こんにゃく座の表現を知り尽くしているから、良い面も弱い面も知っていて、こんにゃく座に対する思いもたくさんあるだろうから、寺嶋くんの曲によって今までとは違うこんにゃく座の色合いが出せるかもしれない。そういうことがすごく楽しみです。

(聞き手・田上ナナ子/こんにゃく座制作)

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まず最初の18枚の楽譜が寺嶋さんより届きました。
新しいオペラがいままさに生まれようとしています。

久しぶりとなるこんにゃく座の新作賢治オペラ。
ひとりでも多くの方にご覧いただきますよう、
座員一同劇場にてお待ちしております!


※1 緋国民楽派第14回作品演奏会
水野佐知香plays 緋国民楽派vol.2
2016年7月2日(土)17:00開演
すみだトリフォニーホール小ホール
チケット料金〈全席自由〉 一般4,000円 学生3,000円
お申し込み・お問い合せ 東京アーティスツ TEL03-3440-7571