◆1 ピアニスト五味貴秋 演奏動画&インタビュー

五味貴秋さんには、2018年2月に公演した喜歌劇『天国と地獄』の稽古ピアニストをお願いし、同年5月にはオペラ『銀のロバ』の旅公演にピアニストとして参加、そして9月のオペラ『イヌの仇討あるいは吉良の決断』では、寺嶋陸也さんと交代でピアニストとして出演してもらいました。
そんな五味さんの演奏動画と、萩京子によるインタビューです。

五味貴秋《演奏動画》
「八匹めの象の歌」 〜林光ピアノ曲集「もどってきた日付」より〜



五味貴秋インタビュー 聞き手:萩京子


/五味くんとは、『天国と地獄』の稽古ピアノに入ってもらったのが最初ですね。

五味/そうですね。みなさんとは、稽古が始まる前日の「ヒカル忌」で、初めてお会いしました。

/それから、『銀のロバ』があって『イヌの仇討あるいは吉良の決断』ですね。今回、林光歌劇場2019で演奏をしていただくことになったので、改めていろいろ質問しようということなのですが、まずは、こんにゃく座に関わる前に見たこんにゃく座のオペラは何でしたか、そしてその印象はどうでしたか。

五味/関わる直前は、お誘いいただいた『スマイル』だと思います。たしか小学生の時に、巡回公演でこんにゃく座が学校に来てくれたと思うんですけど…。演目は覚えていないんです。

/でも、こんにゃく座という名前は覚えていたんですか。

五味/はい。名前は覚えていました。それから中学の時に、こんにゃく体操をビデオで見ました。中学に合唱部があって、伴奏のお手伝いで行って、そこでたまたま見て、こんにゃく体操っていうのがあるんだって知って。

/それは見ただけ? 実際にやったりは。

五味/やってみました。

/ピアノとの出会いは。

五味/ピアノとの出会いは、そうですね、母に勧められて。

/お母さんはピアノの先生でしたか。

五味/そうです。母はピアノを教えているんですけど、僕は3歳の時からヤマハの3歳児ランドというコースに入ってました。

/お母さんに習うんじゃなくって。

五味/はい。母には習わず。そこから小学校卒業するまではヤマハにずっと通ってました。

/それは個人レッスン?

五味/そうです。個人レッスンと、あとグループレッスンもありました。7〜8人1グループで、CMでやってる「ドレミファソラファミレド」をやってました(笑)。


/即興とかそういうのも?

五味/即興演奏もありました。

/それを小学校卒業するまでやって、それからどうしたんですか。

五味/それからは、少しピアノをお休みしようと思ったんですけど、わりとすぐ、地元の甲府の母の知り合いの先生につきまして、そこで中学から習いはじめました。それと同じくらいの頃に、山梨学院大学のミュージック・アカデミーという催しがあって、東京芸大の東誠三先生という先生が月に一回、東京からいらしていただいて、そこでレッスンを受けるというのもはじめて、高校時代も行ってました。

/それで合唱部でピアノを弾いたりもしていたんですね。その時には、音楽の方面に進もうかと思ったんですか。

五味/いえ、最初は高校の音楽の先生になりたくて。

/高校の音楽の先生になりたかった!

五味/はい。それで大学受験もそちらの方向で考えていました。それで静岡大学に入って、地元の山梨県で先生になりたかったのですけど、高校の音楽の先生は山梨県で募集がなかったんですね。だったら、地元の大学に入ったほうが伝手があるんじゃないかと思って、山梨大学の大学院に入りました。

/先生になりたいと思ったのは、なんでですか。

五味/小、中、高と音楽の先生が素敵で、特に高校は合唱部だったんですけど、その合唱部で大人数でピアノを弾くっていうのがおもしろいなと思ったのが、ピアノをもっと好きになるきっかけになっていて。高校の音楽の先生になりたいと思いました。

/合唱はどんな曲をやっていたんですか。

五味/それこそ林光さんの「日本叙情歌曲集」の「箱根八里」と「待ちぼうけ」と「早春賦」を高校1年の時に初めて弾きました。あとは、コンクールに出ていたのでNHKコンクールの曲とか、モンテヴェルディとかマドリガーレとか。

/合唱のほかにはどんな音楽が好きでしたか。

五味/うーん…。好きだったのは…、J-POPだと、Mr.Childrenが好きです(笑)

/(笑)そういう世代ですね。ピアノ以外で好きな楽器は。

五味/大学の時に管弦楽の授業でアルトサックスを吹いていました。その時初めてやりました。興味があって、チェロを習いたくて、少し習ったことがあります。

/大学生で?

五味/それは、高校の時かな。

/寺嶋陸也さんとの出会いというのは、いつですか。

五味/恐らく合唱のピアノを弾かれているのを拝見したのが一番最初で、それは大学生になってからですね。一番印象に残っているのは、三善晃先生のお誕生日を祝う演奏会があって、その演奏会のレセプションだったか、谷川俊太郎さんの「生きる」を栗山文昭さんの指揮で陸也さんがピアノを弾かれて、それに僕は合唱で入っていたんですけど、前奏を弾き始めた時に、その曲は元々知ってはいたんですけど、息をのむほどすごい凄まじい演奏で。静かな始まりなんですけどそこから最後曲が終るまで一言も声を出せずに、聞き入ってしまって! それが衝撃的でした。どうしたらこんなピアノが弾けるんだろう、とか思いました。

/そこから寺嶋さんに、ピアノのレッスンを受けることになったのは、どういうきっかけで。

五味/大学院の時に、山梨大学の合唱団に所属していまして、そこで藤井宏樹先生と出会ったんですけど、藤井先生の合唱団に陸也さんが弾きにいらしてた時に、どうしても習いたいと言って、頼み込んで教えてもらいはじめました。

/レッスンではどういう曲をやったんですか。

五味/バッハのインベンションかシンフォニアから教わって、ショパンのワルツとか、あとは、不肖な弟子なので(笑)もっぱら自分の弾く、合唱曲を見てもらって。


/その時にやらなきゃならないものを見てもらう、みたいな。レッスンは、手ごたえがありましたか。

五味/指導碁のような、1いうと10直ってしまうというような。すばらしい、なんていうんでしょう、なんていえばいいんだろう(笑)

/謎が解けていくような感じなのね。

五味/そうですね。言うことはすごくシンプルなんですけど、的確なんですね。レッスンにいかれている他のピアニストの方とかは、“寺嶋クリニック”て言って。悪いところを的確に処方してくださるっていう(笑)

/今回、「もどってきた日付」から「八匹めの象の歌」を選んで弾いてくれましたけれども、光さんのソングで好きな曲はなんですか。

五味/昨年のオペラ塾で弾かせていただいた「花の歌」がすごく好きで、今回の曲集にもあったんですけど、ひとりでやるにはまだ年齢が達してないかな(笑)、と思いまして。すごく好きな曲です。あと、「うた」「ねがい」「明日ともなれば」がひとつの曲集で出ていますけど、その曲集、3曲とも好きです。

/こんにゃく座のオペラの稽古や本番をやってもらうようになって、こんにゃく座の稽古というのはよその合唱とか、よその音楽の世界とちょっと違うと思うんだけど、こんにゃく座の稽古をやってどうですか。

五味/演出家の方によってかなり一日のスケジュール割も違いますし、進め方、方針ももちろん違いますね。驚いたのは、『天国と地獄』の稽古初日か二日目かに、加藤直さんがいらっしゃるので午前中に稽古をして、午後にすぐ音楽全部通すって言われた時に、「ひえー」と思ったんですけど(笑)、その日の稽古から二日後か三日後に行った時に、まだ楽譜を見ていた歌役者の方々が既に暗譜して歌っているのを見て、ああ、プロってさすがだなと思いました。あと、指揮者がないというのがやはり大きいですよね。たびたび萩さんには音量のバランスなど、『イヌ〜』の時は注意していただきましたけれども、歌い手の息をみたりとか聴いたりしてあわせる、ていうのが特徴的だなと思います。

/そうですね。指揮者がいないから、歌い手にあわせなきゃならないし、あわせるだけじゃなくって、つくらなきゃならないから。そこがね、難しいし、おもしろいところでもあると思うんだけどね。
こんにゃく座の歌役者はどう思います。

五味/どう思います?! ヒカル忌に初めて来た時に、すごく緊張していたんですけど、入口のところで、あかねさん(鈴木あかね)と慎さん(金村慎太郎)が立っていて、あかねさんが「五味さんようこそ」って、あかねさんと面識なかったんですけど、言ってくださって、うわ! なんてホスピタリティのすごいところなんだろうってびっくりしました(笑)! あと慎さんの笑顔が、キュートで(笑)、心がほぐれたっていう。歌を学んできた方と、演劇からきた方と、大きくわけて二種類の方がいらっしゃると思うんですけど、その方々がおなじ舞台の中で、なんていうんですか、相乗効果じゃないですけど…

/そうですね。それぞれの引っ張る力というか、どっち寄り、ではなくってね。

五味/すみません、口下手で(笑)

/いえいえいえ。じゃ、もっと大変な質問。林光さんの音楽をどう思いますか。

五味/お見掛けした時の林さんは小柄な方だったんですけど、作品に触れてみると、音楽の巨人というような方で。作品に目力(めぢから)の強さを感じます。それは社会に対してだったり、演奏したり、聴いたりする私たちに対してだったり。どこからこのエネルギーが出ているんだろうなって、凄まじい曲が多いので、いつも思いますね。


/聞く音楽としての魅力もあるだろうけれども、ピアノを弾く時は好きなところと弾きにくいところとかあるでしょ。

五味/ハハハハハ(笑)。『イヌ〜』はとにかく難しくて、とても弾きづらかったんですけど、単純な伴奏形というのはなくって、それこそオーケストラのイメージのところもあるんでしょうけど、それだけじゃなく、ピアノの持っている楽器のもう一歩踏み込んだところの音楽というか、なんですね。

/あれは、ピアノもヴァイオリンもソリストとして求められることがすごいからね。今回の『たまご』や『おじいちゃん』は2000年初演だから、『イヌ〜』よりちょっと前の作品なんですけどね、林光さんの転換期の作品かなって思う。『イヌ〜』よりかはシンプルだけど。一筋縄ではいかないようなところもあってね。
そうだそうだ、スポーツは何かやりますか。

五味/はい。スポーツは、中学の時、野球部でした。

/あ、野球部。合唱でちょっとピアノを弾き、野球もやっていたんですね。ポジションは。

五味/センターでした。

/ふーん。センターの人ってのは、足が速いのね。

五味/そうですね。僕は足遅いんですけど(笑)。全然走れないセンターでした。

/そうなの。今は何かやってますか。

五味/今は、たまに近くのプールに行って、歩いたりしてます(笑)。


こんにゃく座会議室にて


   


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